国際研究集会 「近代修史事業と史料集編纂の150年」を開催
2019年11月8日(金)、史料編纂所(保谷徹所長)の主催(東京大学史料編纂所所史資料調査ワーキンググループ、東京大学史料編纂所附属画像史料解析センター「本所における画像史料の複製集積過程の研究」プロジェクト、および維新史料研究国際ハブ拠点形成プロジェクトが共催)により、国際研究集会「近代修史事業と史料集編纂の150年」を開催いたしました。明治2(1869)年、維新政府により史料編輯国史校正局が設置され、「修史」の意義を説き「史局」の開設を宣言する「明治天皇宸翰御沙汰書」(史料編纂所が現蔵)が出されました。これが近代修史事業の出発点となり、現在の史料編纂所にまで至ります。近代修史事業開始150周年を機に、これらを史学史上に意義づけるため、近代修史事業研究の第一人者であるマーガレット・メール氏Margaret MEHL (コペンハーゲン大学准教授)およびメール氏の著書『歴史と国家』(東京大学出版会)の訳者の一人である千葉功氏(学習院大学教授)を招聘し、国際研究集会を開催しました。
集会ではまず、メール氏から「Historiography, Chinese Learning(Kangaku), and the State : between Classical and National Scholarship 修史・漢学・国家:古典的学問と国家(ネーション)的学問のあいだ」と題する講演をいただき、19世紀におけるグローバルな知識体系の変動のなかに修史事業を位置づける構想が示されました。次いで、千葉氏から「史料編纂事業への転回―久米事件と南北朝正閏問題―」と題した講演がなされ、一次史料に基づき両事件における諸主体の思惑が跡付けられました。
また、史料編纂所の箱石大准教授および井上聡准教授による報告が行われました。箱石報告「明治太政官文書研究からみた「宸翰御沙汰書」」では、「明治天皇宸翰御沙汰書」の作成過程、および同時代の勅書との比較検討がなされました。井上報告「所史資料調査の現状と展望―本所所蔵『往復』を中心に―」では、近年再発見され、学術資源化が進められている『往復』(編纂事業のため外部とやりとりした各種書類の簿冊。明治23年分から昭和26年分まで現存)の紹介、および史学史・地域史における活用可能性について展望が示されました。
当日は外国人研究者や大学院生、編集者など幅広い層から90名弱が来場し、本所大会議室(福武ホール)が満員となるほどの盛況となりました。質疑応答も活発で、史学史あるいはヒストリオグラフィーの歴史について高い関心があることが示されました。
なお研究集会後のレセプションは、史料編纂所がかつて使用していた赤門書庫(『往復』もここで再発見された)を改修した伊藤国際学術研究センターファカルティクラブで行われ、往時を偲びつつにぎやかな交歓がなされました。
関連書籍
マーガレット・メール 著、千葉功・松沢裕作 訳者代表『『歴史と国家―19世紀日本』 (東京: 東京大学出版会、2017年年) ISBN: ISBN978-4-13-020156-8