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そのとき、誰もが災害情報を得られるように 情報保障など、新たな試みを取り入れた防災訓練を実施

掲載日:2018年11月12日

災害発生などの有事の際、不安に感じることは何でしょう?

2018年10月24日、生産技術研究所と合同で実施した平成30年度駒場IIリサーチキャンパス合同防災訓練(以下、防災訓練)で、先端研は新たな試みを行いました。

防災訓練にこそ、情報保障を

「大災害は忘れた頃にやってくる、という状況は、もう、あり得ません」

壇上で挨拶をする神崎亮平所長の横に、もう一人、立っている人が。演台の横には、大きなモニターもあります。



すべてのアナウンスを文字で表示。壇上での講評は手話通訳も

 
災害発生などの有事の際、不安に感じること、それは、すぐに正しい情報を得られないことです。

本年度の防災訓練では、先端研・近藤武夫准教授の提案で、新たに情報保障に対応した取り組みを行いました。その一つが、手話通訳。目黒消防署長の講評と、生産技術研究所・岸 利治 所長、先端研・神崎所長の挨拶は、手話で通訳されました。


もう一つの情報保障は、文字表示です。
 
先端研では、業務用のメーリングリストに加えて、希望者は誰でも事前に非常時用の追加メールアドレスを登録すれば、災害発生といった非常時の情報を携帯などで受け取れる仕組みがあります。聴覚に障害のある教職員や学生のほか、非常時のアナウンスが聞こえにくい場所で作業している可能性のある人など、多くの人に使ってほしい仕組みです。
 
防災訓練の避難場所であるユニバーシティ広場では、大型モニターでの文字表示を行いました。壇上にいる話者のマイクから自動で音声入力され、モニターに表示されます。誤変換された文字は、文字通訳者がその場で素早く修正していきます。
 
モニターに映し出された内容は、事前にダウンロードしたアプリを使って、スマートフォンやタブレット端末で表示できるため、モニターから離れた場所でも、手元で文字表示を確認することができます。災害対策本部が避難場所で発信した全てのアナウンスも、文字表示による情報保障を行いました。

● 環境安全管理室長・災害対策副本部長 高橋 哲 教授(光製造科学分野)
「今回の防災訓練では、情報保障への対応を取り入れました。バリアフリー分野を持つ先端研の特徴が活かされた取り組みと言えます。
提案くださった近藤武夫准教授は、昨年の先端研創立30周年式典をはじめ、駒場リサーチキャンパス公開や多くのセミナー等で、先進的な情報保障を積極的に実施され、その場にいる者として毎回、その効果と重要性について身をもって体感してきましたが、今回は、防災訓練といった非常時を想定した場だからこその、全く異なった次元で、情報保障が有する特別な価値を感じることができました」

● 情報保障を提案した、近藤 武夫 准教授(人間支援工学分野)
「有事の際に、誰もが災害情報を得られることは、とても重要です。そのための備えである防災訓練でも同様です。地域の指定避難場所になっていることが多い大学には、障害等によるニーズのある人々が、有事の際に多数集まることも想定されます。高齢者、障害者、外国人、負傷者など、様々な個別のニーズのある人々に、情報を届け、避難時の移動支援を想定しておく必要があります。

平成28年4月に障害者差別解消法が施行され、障害のある人に対する不利益取扱いの禁止や合理的な配慮の提供が行政機関において法的義務となったことも契機としてありますが、普段からユニバーサルでインクルーシブな防災のあり方を、参加者全員で自分ごととして考え、一緒に取り組む機会を作りたいと考えていました。防災訓練は、ノウハウを実践に移すいい機会だったと思います」

車いす利用者と関係者は、階段用避難器具を使った避難を体験

先端研には、障害を持つ教職員や学生が在籍しています。

移動が困難な人や負傷により動くことができなくなった人の避難支援のために、階段で安全・迅速に避難するための避難器具「イーバックチェア」に加え、ノーパンクでリクライニング機能もあり、ストレッチャーとしても利用できる「フルリクライニング車いす」を、先端研の全棟に配置しています。

昨年度からは、防災訓練時にイーバックチェアを使った避難訓練も併せて開始しました。
 
車いす利用者は、避難指示が出たらすぐに車いすからイーバックチェアに乗り換え、介助者が手動で操作しながら階段を降り、降りたところでフルリクライニング車いすに乗り換えます。

イーバックチェアは、階段降下中と踊り場での取り回しでは操作が異なり、介助者にとっても体験してみないとわからないことがたくさんありました。

● イーバックチェアで避難した、並木 重宏 特任講師(生命知能システム分野)
「乗ってみると、見た目ほど怖くなかったです。いざという時のために、多くの人に使い方を知ってもらえるとよいです。使い方は、説明書を読むより、動画を見るほうがわかりやすいと思います。イーバックチェアの置いてある場所を知らない方も多いと思うので、普段から知っていただく必要があると思いました。訓練の際には、周りの人にも実際にイーバックチェアに乗って体験してもらうのも、よいかもしれません」
 
● イーバックチェアを操作した、渡辺 伸一 交流研究員・静岡県立沼津東高等学校教諭(生命知能システム分野)
「今回はじめて防災訓練に参加し、イーバックチェアを使えば、簡単な準備で階段搬送できることを知りました。
イーバックチェアは押すときに抵抗があるので、勢いよく進むことはなく、また滑り落ちることもなかったです。踊り場で向きを変えるときに大回りになりがちでしたが、1回練習しておけば、誰でも簡単に操作できると思います。移動しながら乗っている人に声をかけると、お互いにコミュニケーションが取れて不安感を拭えると思いました。
防災訓練に参加したことで、いざというときについて、より具体的に考えることができました。高校や地域防災にも広まってほしいです」

タブレットでの点呼集計を導入

また今回は、点呼集計を点呼票(紙)とタブレット端末で行いました。

タブレット端末では、生産技術研究所の沼田宗純准教授が開発された入力システムを共有し、紙で集計するチームと、そのデータをタブレット端末に入力するチームと2つに分かれました。

紙の点呼票に印刷されたQRコードをタブレットで読み込むと、紙と同様に各研究室や所属部署ごとに在籍者名が記載された画面が立ち上がります。そこに、紙で集計した人数を入力すれば、自動的に集計される仕組みです。このシステムによって、入力が簡素化され、集計上のミスが減るなどのメリットがあります。

今回、先端研の点呼票データは、システムを開発した生産技術研究所が用意してくださいました。生産技術研究所は、今回からタブレット端末のみでの点呼へと移行したようです。

訓練終了後の講評では、目黒消防署長が防災訓練の打ち合わせ時のことを振り返り、こうコメントされました。
 
「生産技術研究所と先端科学技術研究センターの皆様が目黒消防署にいらした際に、人数を集計するシステムや、言葉が文字に変換されるシステムのお話を伺って、とてもびっくりしたと同時に、感動したわけです」

今後、目黒消防署での文字表示システムの導入を検討されるという話も伺っています。

集団で行動したら、どんなことが起こるのか
想定外を思い知り、備え方を考える

今回の防災訓練には、生産技術研究所と先端研、合わせて1,000人以上が参加しました。
普段は見晴らしのよいユニバーシティ広場も、1,000人が集まるとこんなに密集してしまいます。



災害時には、この中にいる全員が、同じ状況ではありません。身体の不自由な人もいれば、災害で負傷した人もいます。
普段と異なる状況だからこそ、誰もが速やかに情報を共有し、安全に避難できることが重要です。

防災訓練実施後には、目黒消防署および中目黒出張所署員、生産技術研究所、先端研災害対策本部員による意見交換会が行われ、今年度の防災訓練の振り返りと課題を洗い出しました。

● 災害対策本部 剱持 保行 専門員(財務企画チーム)
「今回は、近藤准教授のご提案により、研究室の皆様のご支援のもと情報保障への対応に取り組み、タブレットでの点呼集計を導入するなど新たな試みを行いました。実施前には事務部スタッフと打ち合わせを行い、ハンドスピーカーの追加、点呼集計を妨げないよう役割分担の明確化など、確実かつ迅速に避難者の安全確認ができるプロセスを検討しました。

防災訓練後の意見交換会では、点呼集計後の対応についてなど、今後の検討事項について意見を交わしました。今回の訓練で発見した課題解決には、速やかに取り組む予定です」

避難訓練後の所長挨拶で、神崎所長は
「私たちはすでに、大災害が頻繁にやってくる時代に生きている」
と話し、常日頃から、災害に備える重要性を強調しました。
 
「集団で行動することによって、実際にどんなことが起こるのかを確認することは非常に重要です。今回、機器の不具合で警報が鳴らないエリアがあったり、点呼時の集計ミスがそのまま反映されていたなどの課題が見つかりました。訓練でよかったと思います。この機会に、今回の訓練をしっかり振り返って、災害に対する今後の対応を考えてほしい」

先端研では今年度より、東京大学バリアフリー支援室と連携し、障害を持つ学生が理工系分野で活躍できるキャリア支援を目指す「インクルーシブデザインラボ」プロジェクトが始動するなど、インクルーシブな社会に向けた新たな取り組みを展開しています。
 
防災訓練においても、イーバックチェアでの避難や情報保障への取り組みも含めた本年度の防災訓練全体の評価を行い、より安全で迅速な避難へのプロセスを構築します。

(取材・文/広報・情報室 山田 東子)

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