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組織透明化と機械学習による内耳の全感覚細胞のアトラス作成 内耳障害の全自動解析により難聴の原因解明に貢献

掲載日:2019年2月20日

組織の透明化による感覚細胞の可視化
上:内耳のサンプルの脱灰から屈折率調整までを3日で終了することが可能。 下:内耳の感覚細胞の蛍光画像。表面からの深さ(0-800ミクロン)によらず、感覚細胞からの蛍光シグナルが検出できる。
© 2019 Shinji Urata, Shigeo Okabe

東京大学大学院医学系研究科の岡部教授、山岨教授らの研究グループは、組織透明化による全有毛細胞の可視化と機械学習による全細胞の検出プログラムを組み合わせることにより、コルチ器内の全ての有毛細胞の騒音や加齢による障害を自動的に解析する技術を開発しました。

ヒトが音を聴くには内耳の中にあるコルチ器で音の振動を有毛細胞と呼ばれる感覚細胞が感知する必要があります。コルチ器には特定の周波数に反応する有毛細胞が数千個整然と配列していますが、これらの多数の細胞の性質を網羅的に解析する手法はありませんでした。

本研究では、コルチ器に存在する数千個の有毛細胞全てを高い精度で自動的に検出し、一個一個の細胞の障害の程度などを評価する方法論を提案しました。このような解析を実現させるために、新しい技術である組織の透明化手法を骨に囲まれたコルチ器にも応用できる様にまず改良しました。その結果として、組織深部からの蛍光シグナルを検出できる二光子顕微鏡によるイメージングと組み合わせることで、コルチ器を含む内耳の組織全体の3次元画像を取得できる様になりました(図)。次に得られた3次元画像から自動的に全ての細胞の位置や細胞毎の情報を抽出するためのプログラムを、機械学習の手法を活用して開発しました。この方法を利用することで、コルチ器への障害の性質によって、異なったパターンで有毛細胞の障害が出現することがわかりました。

本成果により、これまで解析することが困難だった難聴のモデル動物の内耳に起こっている変化を、短時間の内に網羅的かつ一細胞レベルで解析することが可能になりました。本研究の成果を今後活用することで、多くの高齢者を悩ます老人性難聴といった病態の解明やそれに基づく治療戦略の開発が加速すると期待されます。

「今回の研究は固い骨の中に閉じ込められた内耳の感覚細胞を一細胞レベルで画像化する方法の開発と、得られた画像データから機械学習により全ての感覚細胞を見つけ出してその障害の程度を評価する、という二つの技術を組み合わせた事が良い結果につながりました」と岡部教授は話します。「今後はこの技術を活用して、老人性難聴のマウスモデルなどの解析を行い、病態の解明へとつなげていきます」と続けます。

論文情報

Shinji Urata, Tadatsune Iida, Masamichi Yamamoto, Yu Mizushima, Chisato, Fujimoto, Yu Matsumoto, Tatsuya Yamasoba, and Shigeo Okabe, "Cellular cartography of the organ of Corti based on optical tissue clearing and machine learning ," eLife: 2019年1月18日, doi:10.7554/eLife.40946.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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