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健常者と複数の精神疾患の記憶力に共通のモデル 健常者と精神疾患に共通する脳回路と記憶力の関係

掲載日:2019年2月19日

健常者と複数の精神疾患に共通する脳回路と記憶力の関係
健常者における脳回路の特徴と個人差を対応付けるモデルで、複数の疾患における作業記憶力の低下幅を説明できる。このことは、健常者と複数の精神疾患で、脳回路の特徴と記憶力の関係が連続することを意味する。
© 2019 山下真寛・今水寛

東京大学大学院人文社会系研究科の今水寛教授らの共同研究グループは、健常者と複数の精神疾患において、脳の大規模な回路の特徴と記憶力の関係を、共通する数理モデルで説明できることを明らかにしました。

暗算をしたり、複雑な話を理解したりするときには、情報を一時的に記憶・操作することが必要になります。こうした認知機能は「作業記憶」と呼ばれています。複数の精神疾患において、作業記憶力が低下することが知られていました。しかし、低下のメカニズムに関しては、健常者における記憶力の変動や個人差が極端に増幅されたケースとして、同じ枠組みで説明できるのか、精神疾患ごとに固有な低下の原因があるのか解りませんでした。

研究グループは、機械学習アルゴリズムを用いて、健常者の脳回路の特徴と、作業記憶力の個人差を対応付けるモデルを作成しました。作成したモデルは、統合失調症患者一人一人の脳回路の特徴と、作業記憶低下の個人差とを対応づけられることを見いだしました。同じモデルは、統合失調症、大うつ病、強迫症、自閉スペクトラム症の4つの疾患における脳回路の特徴と作業記憶力とを集団レベルで対応づけられることも解りました。この結果は、健常者の個人差に関与する脳回路の特徴と作業記憶力の対応関係が、複数の精神疾患にも共通して存在することを示しています。

本研究で開発した方法は、作業記憶力の低下など、疾患横断的な症状の背景に、どのような脳回路の特徴があるかを調べる手段として有効と考えられます。

  

「今回利用したモデルは、もともと健常者の認知機能の個人差を説明するためのモデルでした」と今水教授は話します。「脳と心の関係を数理モデルで記述すると、複雑に見える仕組みを読み解く鍵が得られることを実感しました」と続けます。

本研究は、国際電気通信基礎技術研究所の山下真寛研究員・川人光男所長、京都大学医学部附属病院精神科神経科の高橋英彦准教授、脳情報通信融合研究センターのベン・シーモア研究員らとの共同研究成果です。

論文情報

Yamashita M, Seymour B, Takahashi H, Kawato M, and Imamizu H., et al., "A prediction model of working memory across health and psychiatric disease using whole-brain functional connectivity.," eLife: 2018年12月10日, doi:10.7554/eLife.38844.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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