研究コミュニケーションコンテスト3MTを東大で初めて開催
実施日:2019年5月11日
何年も研究してきたことを、3分以内で、たった1枚のスライドを使って、専門家ではない観客の前で説明できますか?
2019年5月11日、東京大学で博士課程に在籍中の大学院生15名が、3MTコンペティションという研究コミュニケーションコンテストで、そのチャレンジに立ち向かいました。小柴ホールで行われたイベントには100人以上の観客が詰めかけました。
40人以上の応募の中から事前選考を勝ち抜いた15人の登壇者は、自身の研究とその社会へのインパクトについて熱のこもったスピーチを英語で披露しました。発表内容は東大の研究の幅の広さと国際性を反映し、発展途上国の飢餓問題を解決するための鉄分と亜鉛をより多く含んだコメの開発、ロシア極東地域における中国人移民の社会への統合、またロケットのコストを抑えるための再生可能なエンジンの開発など、多岐にわたりました。
優勝したのは、農学生命科学研究科獣医病理学研究室の志賀崇徳さん(博士課程4年)。優秀な盲導犬育成のための選択的な繁殖によって犬が発症しやすくなる病気とその遺伝的要因についての研究について発表しました。志賀さんは東大3MTの優勝者として、今年10月にオーストラリアで行われる決勝大会に出場します。また、研究費として30万円が研究室に送られます。
準優勝に選ばれたのは新領域創成科学研究科環境システム学専攻に在籍するJennifer Chia Wee Fernさん(博士課程2年)。現在再生不可能とされているPETボトルを活性炭にすることで地球温暖化をどう食い止められるかについて熱弁をふるい、賞金20万円を獲得しました。
そして、105人の聴衆による投票の結果、ピープルズチョイス賞を受賞したのは、新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻のTiffany Joan Soteloさん。下水処理管の中にスポンジを配置することで処理能力を向上する方法について発表しました。
賞の審査は、大気海洋研究所の横山祐典教授、日本科学未来館プログラム企画開発課の谷村優太氏、そして在日オーストラリア大使館のピタ・アーバックル参事官 (教育・科学)によって行われました。
コンペティション終了後、参加者は、研究についてのプレゼンテーションやコミュニケーション能力を磨く珍しい機会を得られた、と感想を述べました。
優勝した志賀さんは、研究を終えて深夜に帰宅してから自宅でコンテストへの準備を重ねた努力が報われた、と話しました。
「自宅に戻って親の前でスピーチの練習をしたかったのですが、すでに寝ていたので、一人でトイレに籠って原稿を読む練習をしました」。
準優勝のChia さんは、大会参加によって自分の研究が社会の課題にどうつながるかを知ることができたと話します。
「このようなイベントに参加すると、自分の研究内容についての理解が深まります。我々一人一人の研究はその分野の中の非常に小さな部分にすぎないけれど、発表することで社会や環境的に何が問題になっているかという全体像が見えてきました」。
大会後、審査員は、参加者の努力をねぎらうと同時に、このようなイベントが今後も行われることに期待を示しました。
「ご存知のように、東大には才能を持った研究者がたくさんいます」と話す横山先生。「このようなイベントによって、すぐ近くの人が何を研究しているのかを知ることができます」。
未来館で科学コミュニケーションのイベントに数多く携わってきた谷村氏は、それぞれの参加者が、聴衆に関心を持ってもらうための工夫をしていた、と話します。
「発表者は、観客とどうやり取りし、どう引き込むかに注力しながら発表していました」。
オーストラリア大使館のアーバックル参事官は、オーストラリア発の3MTが東京にまで広がったことを歓迎しました。
「それぞれの参加者の研究プロジェクトについてとても多くのことを学びました。そして、今日最初にここに来た時よりもはるかに多くの事を知って帰ることができると感じています」。
3MTコンペティションは研究者がプレゼンテーションやコミュニケーション能力を磨いたり、ほかの研究者と交流する機会を提供してきました。2008年にオーストラリアのクイーンズランド大学で最初の大会が開かれ、今では国際的に知られたイベントとなっています。