ARTICLES

印刷

考え方の「こり」をほぐして症状改善 統合失調症に対するメタ認知トレーニングの効果

掲載日:2019年11月22日

妄想・幻覚などの重症度の変化
通常治療に加えてメタ認知トレーニング(MCT)を受けた当事者群は、通常治療しか受けなかった群と比べて、妄想・幻覚などの症状が有意に改善されていた。
© 2019 石川亮太郎
 

東京大学大学院総合文化研究科の石川亮太郎特任助教(現・大正大学専任講師)と石垣琢麿教授らの研究グループは、メタ認知トレーニング(MCT)という集団精神療法による統合失調症の妄想や幻覚への効果を、ランダム化比較試験によって検証しました。

MCTはドイツ・ハンブルク大学のモリッツ教授らによって開発されました。自分と他者の考え方のクセを、ゲームや話し合いを介して知ることで、硬い考え方をほぐし、症状を軽減させるよう設計されています。これまでは、主に欧米諸国においてその有効性が検証されてきました。日本においても、石垣教授が会長を務めるMCT-Jネットワークが基盤となり普及が図られていますが、ランダム化比較試験のような科学的妥当性の高い臨床試験はまだ行われていませんでした。

試験では、多施設の統合失調症当事者50名を、通常治療群(26名)と通常治療+MCT群(24名)にランダムに割り付け、治療の開始前、最中、直後、1ヶ月後で症状の変化を追いました。その結果、通常治療に加えてMCTを受けた当事者群は通常治療のみの群と比べて、治療終了1ヶ月後でも妄想や幻覚を中心とする症状が明らかに改善していました。

本研究は、世界中で注目されているMCTが、日本でも統合失調症の症状の改善に有効だとするエビデンスを示しました。認知行動療法のようにエビデンスに基づく精神療法は他にもありますが、MCTには丁寧なマニュアルがあるため治療者が長期間の訓練を受ける必要がなく、どのような職種の医療者でも実施可能である(本研究でも、各グループのトレーナーは精神科医、精神科看護師、作業療法士でした)ことに加えて、参加する当事者の満足度も高いことから、統合失調症に対する心理社会的治療法の一つとして日本でさらに普及することが期待されています。また今後は、統合失調症だけでなくうつ病や不安症に対するメタ認知トレーニングの研究も行い、就労移行や復職支援での応用も検討したいと考えています。

「多くの方々からのご支援とご助言により、本研究を完了することができ大変光栄に思います。メタ認知トレーニングはさらなる発展可能性を秘めたアプローチです。心理の専門家に限らず、さまざまな職種の方々に関心をもってもらえたら嬉しいです」と石川講師は語ります。また、石垣教授は「楽しみながら学習できるメタ認知トレーニングの有効性が日本でも認められたことは、当事者の方々にとっても大変喜ばしいことだと思います。症状の軽減もさることながら、このトレーニングの最大の魅力は、誰もが持っている考え方のクセを参加者全員で考えることで自分への理解が深まることです」と研究の意義を語ります。

論文情報

Ryotaro Ishikawa, Takuma Ishigaki, Takeshi Shimada, Hiroki Tanoue, Naoki Yoshinaga, Naoya Oribe, Takafumi Morimoto, Takeshi Matsumoto, Masahito Hosono, "The efficacy of extended metacognitive training for psychosis: A randomized controlled trial," Schizophrenia Research: 2019年8月27日, doi:10.1016/j.schres.2019.08.006.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

関連リンク

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる