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「無知の知」を生み出す神経基盤を発見! 前頭極が未経験の出来事に対する確信度判断を担う

掲載日:2018年9月5日

サルの脳のはたらきを表した図
「無知の知」を実現する脳のはたらき
進化的にもっとも新しい脳領域のひとつである前頭極(10野)が、記憶の神経回路と相互に情報をやり取りすることで、「無知の知」の自覚が生み出されることがわかった。
© 2018 Kentaro Miyamoto.

東京大学大学院医学研究科の宮本健太郎研究員(日本学術振興会特別研究員)、宮下保司客員教授(順天堂大学大学院医学系研究科特任教授)らの研究グループは、前頭葉の先端部にあたる前頭極が、未経験の出来事に対する確信度判断を担うことを発見しました。前頭極は自身の無知に対する自己意識―“無知の知”―を生み出すはたらきを担うことが示唆されました。

ソクラテスの唱えた「無知の知」に代表されるような、自分自身が経験したことのない出来事に対して評価を行う心のはたらきは、抽象的で概念的な思考を行うために重要です。しかし、私たちの脳がどのような仕組みで「無知の知」の意識を生み出すのか、まったく分かっていませんでした。

研究グループは、すでに、ヒトと生物学的に近しいマカクサルが、自らの記憶に対して確信している程度を、客観的かつ行動学的に評価する方法を確立していました(「記憶の確かさを判断するサルの大脳メカニズムを解明!」 Research News 2017/03/16)。そこで、サルが未経験の出来事に対して確信度判断を行っている時の脳の神経活動を、磁気共鳴機能画像法(fMRI法)で計測しました。その結果、両側の前頭極(10野)が、未経験の出来事への確信度判断の成績と比例して、活動を強めることがわかりました。さらに、神経活動を抑えるような薬剤(GABA-A受容体作動薬 ムシモール)をこの脳領域に注入し、神経活動を一時的に抑えたところ、経験した出来事への確信度判断を行う能力や、出来事自体を過去に経験したか否かを判断する能力は正常に保たれるものの、未経験の出来事への確信度判断を適切に行うことが出来なくなりました。

この成果は、脳機能の科学的根拠に基づいた効果的な教育法や、認知機能障害のリハビリテーション法の開発に貢献すると期待されます。

「進化的に最も新しい大脳領域として知られる前頭極に『無知の知』に特化した神経基盤が存在するのは興味深い発見です」と宮本研究員は話します。「前頭極の機能をさらに調べることで、『無知の知』の自覚に基づいて、知らない情報を集めたり、新しいアイデアを生み出したりする際の、高度な思考のはたらきが解明されるのではないか」と期待を寄せます。

論文情報

Kentaro Miyamoto, Rieko Setsuie, Takahiro Osada, Yasushi Miyashita, "Reversible silencing of the frontopolar cortex selectively impairs metacognitive judgment on non-experience in primates," Neuron: 2018年1月26日, doi:10.1016/j.neuron.2017.12.040.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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