急性下部消化管出血、緊急内視鏡検査の有用性について驚くべき結果が判明 緊急内視鏡検査は、待機的内視鏡検査と比較して出血源同定率、再出血率を改善しない
東京大学大学院医学系研究科消化器内科の新倉量太助教、山田篤生助教、小池和彦教授らの研究グループは、全国15病院において、急性下部消化管出血患者に対してランダム化比較試験を行い、24時間以内の早期に実施する緊急内視鏡検査が、24時間後96時間以内に実施される待機的内視鏡検査と比較して臨床転帰(出血源同定率、内視鏡治療成功率、30日以内再出血率、輸血率、入院期間)を改善させないことを明らかにしました。
急性下部消化管出血は、主に大腸から出血を起こす疾患で、よく見られる疾患の1つです。内視鏡検査は出血源の同定や止血治療に有用です。そのため、出血をきたしてからなるべく早期に内視鏡検査を実施することが重要と考えられていました。一方で、早期に内視鏡検査を行っても、その後の臨床転帰が改善しない可能性があることも、別の研究で報告されていました。このため、本当に緊急内視鏡検査が有用なのか、結論がでていませんでした。
この問題を解決するために、ランダム化比較試験を行い、緊急内視鏡検査を受けた79人と待機的内視鏡検査を受けた80人を比較しました。出血源同定率は緊急内視鏡検査が21.5%、待機的内視鏡検査が21.3%でした。内視鏡治療成功率は93.3%対100%、30日以内再出血率は15.3%対6.7%、輸血率は38.0%対32.5%、平均入院期間は7.1日対7.6日、と緊急内視鏡検査の有用性は確認されませんでした。
本試験結果によって、急性下部消化管出血の内視鏡診療が大きく変更されると考えられます。今後は、本試験に参加された患者さんの追跡調査を行い、長期予後(1年後再出血、1年後血栓症、1年後死亡)の成績についても研究を行っていく予定です。
「急性下部消化管出血患者さんに対して、24時間以内に緊急内視鏡検査を行った方がよいと、昔から内視鏡医の間で言われていましたが、緊急内視鏡検査は本当に患者さんのために有用なのか疑問がありました。今回の試験結果は、長年論争になっていた、緊急内視鏡検査の有用性について、結論をだすことができ、今後の患者さんの診療をよりよく行うことができると考えています」と新倉量太助教は話します。
臨床試験というと、新薬の治療効果のみに注目が集まりがちですが、これまでの診療方法が本当によりよいものかどうかきちんと検証することも、医療の質を上げるためにはとても重要だと山田篤生助教は話します。
論文情報
Niikura R, Nagata N, Yamada A, Honda T, Hasatani K, Ishii N, Shiratori Y, Doyama H, Nishida T, Sumiyoshi T, "Efficacy and Safety of Early vs Elective Colonoscopy for Acute Lower Gastrointestinal Bleeding," Gastroenterology: 2019年9月26日, doi:10.1053/j.gastro.2019.09.010.
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