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ヘテロ変異体ミツバチの作出に世界で初めて成功 社会性関連遺伝子の機能解析に向けて前進

掲載日:2018年10月25日

CRISPR/Cas9と人工授精による<em>mKast</em>ヘテロ変異体働き蜂の作出
CRISPR/Cas9と人工授精によるmKastヘテロ変異体働き蜂の作出
mKastを標的としたゲノム編集を受精卵に施し、孵化した幼虫を女王蜂(モザイク)へと分化誘導します。羽化した女王蜂に産卵誘導することで変異体雄蜂を作出し、変異体雄蜂由来の精子を用いて野生型女王蜂に人工授精を施すことでヘテロ変異体働き蜂を作出しました。
© 2018 河野大輝

セイヨウミツバチ(Apis mellifera L.)は社会性昆虫であり、ゲノムが解読されていることから、社会性行動の分子神経基盤研究のモデル生物として利用されてきました。これまでに、社会性行動に働くと予想される多くの遺伝子や脳領域が同定されています。しかしながら、ミツバチにおける有効な遺伝子操作法が最近まで存在しなかったことから、これらの候補遺伝子や脳領域が、実際に社会性行動を制御しているかどうかは未だほとんど明らかになっていません。

東京大学大学院理学系研究科の河野大輝大学院生と久保健雄教授は先行研究で、世界で初めて、ミツバチのゲノム編集の基礎技術を開発し、変異体雄蜂の作出に成功してきました。今回、彼らはこれらのゲノム編集技術をミツバチの脳高次中枢で発現し、働き蜂の行動制御に関わる可能性が指摘されているmKast遺伝子に適用しました。そして、mKastのタンパク質発現が完全に欠失している雄蜂と、その精子を用いた人工授精によりヘテロ変異体働き蜂の作出に成功しました。これらの結果は、mKastが少なくとも雄蜂の正常発生や性成熟には寄与しないことを示しています。

また、本報告は変異体雄蜂を用いた人工授精によって第2世代のヘテロ変異体ミツバチの作出に成功した初めての例です。これにより、室内飼育下での交配によって次世代に変異を継承することで、将来的にホモ変異体働き蜂を作出可能であることが示唆されました。今後、社会性関連遺伝子の機能解析が加速し、脳高次中枢における社会性行動制御の分子メカニズムの解明に繋がることが期待されます。

「ミツバチは興味深い社会性行動を示しますが、この社会性こそが遺伝子操作を難しくしています。今回の遺伝子操作の成功が、ミツバチの研究に新たな切り口を与えることを期待します」と河野大学院生はコメントしています。

論文情報

Hiroki Kohno and Takeo Kubo, "mKast is dispensable for normal development and sexual maturation in the male European honeybee," Scientific Reports: 2018年8月21日, doi:10.1038/s41598-018-30380-2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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