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研究コミュニケーションコンテスト3MTをオンラインで開催 理学系研究科の中川悠太さん(博士課程1年)が優勝

掲載日:2020年5月25日

実施日:2020年5月23日

自宅アパートの部屋でポーズを取りながら。あるいは後ろに植物や花を飾って。録画環境や背景はまちまちでも、参加者の目指すものはたった一つ。1枚のスライドを使い、英語で、3分以内で、非専門家に向けて研究を分かりやすく説明することです。

東京大学に在籍する博士課程学生が、研究コミュニケーションコンテスト3MTコンペティションに参加し、そのチャレンジに立ち向かいました。今年は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、すべてオンラインで開催されました。

総勢40人の応募者の中から事前選考を経て参加資格を得た出場者19名は、大会前に3分間のプレゼン動画を自ら録画し提出しました。23日、3名の審査員が各自、全員の動画を視聴した後、ズーム会議による審査を行い受賞者3名を決定。オンラインで授賞式を行いました。

がん再発のメカニズムに関する研究内容を発表した理学系研究科化学専攻の中川悠太さん。見事優勝に輝いた

昨年の第一回東大3MTには100人以上の聴衆が参加し、本郷キャンパスの小柴ホールで出場者の熱弁を直接聞く機会がありました。今年は形式が大きく変わりましたが、研究や社会へのインパクトを伝えたいという参加者のエネルギーや熱意は強く伝わる大会になりました。

大会では、東京大学の研究の幅の広さと国際性を反映し、分子の自己組織化のメカニズム、折り紙のようにたたんで火星に持っていける住宅、SNSが若者の精神に与える影響など、多岐にわたる研究内容が発表されました。

優勝したのは理学系研究科化学専攻の博士課程1年の中川悠太さん。がんの再発原因になると疑われている成長の遅いがん細胞を、マイクロ流体力学を用いて迅速に振り分けるシステムについて発表しました。東大3MTの優勝者として、今秋、オーストラリアのクイーンズランド大学がオンラインで主催するアジア太平洋地域3MT大会に参加します。また、研究費として30万円が研究室に贈られます。

「もちろん勝ちたいなと思って参加しましたが、優勝には驚きました」と中川さん。「3分間はすごく短いので話の構成を考えるところが一番大変でした。普段から学会とか研究室のセミナーで話しますが、15分か20分は時間があります。そこが一番難しかったです」

事前に録画を提出するという形式を利用し、日本国内のみならず出身国のベトナムにいる友人や家族からもアドバイスを得た、と話すのは準優勝した総合文化研究科広域科学専攻のトゥリン・スアン・トゥルンさん。二酸化炭素を吸収する海草の分布の長期的変化を分析する方法について発表しました。トゥリンさんには研究費20万円が贈られます。

博士課程2年目のトゥリンさんは、オンライン形式によって研究コミュニケーションの幅が広がったと考えています。

「講堂で聴衆に向かって話すだけでなく、(インターネットを通じて)すべての人に向かって話すことによって、東大が何をやっているのか、そこで学生が何をやっているのか、ということが多くの人に伝わりやすくなります。また、(録画という形で残るので)後で見ても意味のある発表をすることが強く求められます」

農学生命科学研究科水圏生物科学専攻のラベブ・テベルさん(博士課程2年)は、抗生物質がいかに細菌との戦いに負けつつあるか、というテーマについて話し、3位に入賞しました。テベルさんには10万円が贈られます。

チュニジア出身のテベルさんは、この大会への準備を通じて、多くのスキルが身についたと話します。

「プレゼン能力、ボディランゲージ、そして特にストーリーテリング力について多くのことを学びました。このような大会ではストーリーテラーになることがとても大事です」

録画を提出する前に友人や10歳の姪にも見せて、意見を求めたと話すテベルさん。シンプルに考えをまとめ、端的に話すことの重要性を実感したそうです。

今年の審査員は、大島まり生産技術研究所教授、在日オーストラリア大使館のピタ・アーバックル参事官 (教育・科学)、日本科学未来館プログラム企画開発課の谷村優太氏が務めました。

審査員は3MT開催元のクイーンズランド大学が公表したオンライン形式での大会の実施要領に従って審査を行いました。研究の背景や重要性について、キーワードを説明しつつも専門用語に頼らずに説明しているか、また研究のインパクトや結果について明確に説明しているか、などが審査基準に含まれます。

アーバックル参事官は、出場者の発表のレベルの高さに感銘を受けたと話し、受賞者を選ぶのは難しかった、と振り返りました。

「上位3人を選ぶのは本当に難しかったです。多くの発表が非常に素晴らしく、すべての発表が大会に出場するのにふさわしい出来栄えでした。もちろん全員が博士号取得候補者で、卓越した能力を持ち、研究を通じて社会に貢献しようとしている人たちですから、一つ一つの発表を聞くのがとても楽しかったです」

谷村氏も、今年の大会は、参加者の研究への情熱や意気込みが強く伝わるものだった、と評価しました。

「研究の多様性、特にローカルな課題をグローバルな課題に結びつける、ということにかける参加者の熱意がよく伝わってきました。オンライン開催ということで、気持ちが伝わりにくい部分やジェスチャーが分かりにくい部分があったかもしれませんが、科学を伝えるという気持ちは変わらないと思います。これから、いろんな形でのサイエンスコミュニケーションが活性化されるといいなと思います」

大島教授も、このような大会は、ポストコロナ時代の若い研究者のトレーニングの一例になる、と話しました。

「現在、私たちが経験しているパンデミックは、今までのやり方を根底から見直す良い機会になったのではないかと思います。日本人は一般的に、与えられた状況の中で、効果的に発表を行い、重要な観点を端的に示すことは苦手です。しかし、このようなイベントを東大が主催することにより、ポストコロナに対応する新しい発表のあり方を模索するとともに、若い優秀な学生にグローバルな視点で自分の研究を考え発信するきっかけを与えることは大変意義深いと思います」

3MTコンペティションは、研究者がプレゼンテーションやコミュニケーション能力を磨き、ほかの研究者と交流する場を提供してきました。2008年にオーストラリアのクイーンズランド大学で始まり、今では世界85か国の900以上の大学で開催されています。

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第二回東大3MTの授賞式はズーム会議で行われ、出場者、審査員と広報戦略本部のスタッフが参加した
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準優勝した総合文化研究科のトゥリン・スアン・トゥルンさん。二酸化炭素を吸収する海草の分布の長期的変化について発表した
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3位を受賞した農学生命科学研究科のラベブ・テベルさん。薬剤耐性に関する研究を分かりやすく解説した

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