てんかんの新しい発症機構の解明 繰り返し配列の異常伸長によっててんかんが生じることを発見
解析した51家系のうち49家系については、SAMD12のイントロンにTTTCA繰り返し配列の異常伸長を認めました(BAFME1型)。繰り返し配列には2種類あることがわかっています(リピート構造1、リピート構造2)。残り2家系については、TNRC6AとRAPGEF2のイントロンに同様の繰り返し配列の異常伸長変異を認め、BAFME6型、BAFME7型と名付けました。別々の3つの遺伝子のイントロンに存在する同一の繰り返し配列が同一疾患を引き起こすことからは、遺伝子の機能よりも繰り返し配列そのものが病態に強く関わっていると考えられます。特に、患者神経細胞でRNAの凝集体が認められたことより、RNAを介した病態機序が想定されます。
てんかんは頻度の高い神経疾患で、有病率は1%弱、生涯発病率は3~4%といわれています。てんかんの原因として、外傷、脳血管障害など後天的な要因と遺伝的な要因があります。本邦で見いだされた良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは常染色体優性遺伝を呈し、手の震え(振戦様ミオクローヌス)とてんかん(強直間代発作)を主徴とする疾患です。
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター分子神経学講座特任教授辻省次、神経内科助教石浦浩之らの研究グループは、本疾患の51家系の家族の協力を得て、次世代シーケンサーを駆使したゲノム解析を行い、49家系についてはSAMD12遺伝子のイントロン(タンパク質をコードしない領域)にTTTCA繰り返し配列が異常に伸長して挿入されていることを見いだしました(BAFME1型)。繰り返し数は、約400~3,700で(2,200~18,400塩基対)、繰り返し配列の長さが長くなるほど、てんかんの発症年齢が若年化することが明らかとなりました。
SAMD12遺伝子の異常が見いだされなかった2家系においては、1家系ではTNRC6A遺伝子、1家系ではRAPGEF2遺伝子のイントロンにおいて同一のTTTCA繰り返し配列の異常伸長が原因であることが明らかになりました。この2疾患をこれまでに知られていない新たな疾患としてBAFME6型、BAFME7型と名付けました。
同一の繰り返し配列により、同一の臨床症状が生じることから、それぞれの遺伝子の機能の変化というよりも、異常伸長した繰り返し配列そのものが発症機構に強く関わっているものと考えられます。神経細胞の核内にTTTCAから転写して生じる、UUUCA繰り返し配列を有するRNAの凝集体が観察されており、RNAを介した神経細胞の機能障害が、新しい病態機序として、てんかんの発症に関与していることを示す結果と考えられます。
「イントロンの繰り返し配列の異常伸長によって、てんかんを生じること、さらに、同一の繰り返し配列の異常伸長が3つの遺伝子で見出されたという点で新しい発見と考えられます」と辻特任教授は話します。「病態機序が解明されたことで、より効果的な治療法の開発研究が発展すると期待されます。また、今回の研究パラダイムにより、他の多くの疾患でも発症原因を解明できる可能性が拓かれました」と続けます。
論文情報
Ishiura H, Tsuji S, et al., "Expansions of intronic TTTCA and TTTTA repeats in benign adult familial myoclonic epilepsy," Nature Genetics: 2018年3月5日, doi:10.1038/s41588-018-0067-2.
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