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食と健康:栄養による腸の制御 アミノ酸による組織幹細胞の維持システムが分子レベルで明らかに

掲載日:2018年12月13日

腸組織恒常性維持機構の模式図
メチオニン代謝による腸組織恒常性維持機構の模式図
通常摂食時、腸に取り込まれたメチオニンはS—アデノシルメチオニン(SAM)に代謝され、腸幹細胞のタンパク質翻訳を活性化する。飢餓時にはSAMが低下することによって腸幹細胞における翻訳が低下し、分裂が停止する。SAMの低下は同時に腸上皮細胞からのUpd3分泌を促進する。再摂食時にはこのUpd3によるJAK-STAT経路の活性化と、タンパク質翻訳の亢進によって、腸幹細胞の分裂活性化が起こる。
© 2018 津田(櫻井)香代子

東京大学大学院薬学系研究科の小幡史明講師、津田(櫻井)香代子特任研究員、三浦正幸教授らは、必須アミノ酸であるメチオニンが、栄養依存的な腸幹細胞の活性を制御することを、ショウジョウバエを用いて明らかにしました。

食物由来の栄養とその代謝産物は生体組織の恒常性を保ち、健康維持に欠かせないものです。腸組織の恒常性維持は組織幹細胞の増殖と分化によって保たれています。しかし、栄養がどのように組織幹細胞の分裂と分化に関わっているかについては理解が進んでいませんでした。

研究グループは、ショウジョウバエをモデルとして、摂取栄養分に含まれるメチオニンの一次代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)が、腸幹細胞の分裂に必要であることを発見しました。SAMは細胞内において様々な分子のメチル化修飾に使われることで、標的分子の機能を制御することが知られています。本研究において、SAMは、タンパク質翻訳に関わるタンパク質のメチル化を介して、腸幹細胞の分裂を制御していることが示されました。興味深いことに、SAMは、分裂を起こさない栄養吸収細胞である腸上皮細胞においては、サイトカインの一種であるUpd3の産生を調節していました。このUpd3は、飢餓状態からの再摂食時におきる、腸幹細胞の分裂活性化を促進していることも分かりました。

今回の研究により、腸組織ではSAMが指令分子となって、異なる細胞で異なる機能を発揮することで、組織の恒常性が維持されていることが明らかになりました。本研究により、組織の生理機能や病態機構を探る上で、細胞種ごとのアミノ酸代謝解析の重要性が示されました。

「6年ほどかかった研究ですが、栄養による幹細胞の新たな制御機構を示した仕事で、しっかり着地できてよかったです」と三浦教授は語ります。「この研究から、組織幹細胞と分化細胞からなる腸という細胞社会での、食餌から栄養として取り込まれるメチオニン、その代謝産物SAMに依存した巧妙な細胞数制御機構が見えてきました。今後のアミノ酸研究の発展に繋がることを期待します」。

論文情報

Fumiaki Obata, Kayoko Tsuda-Sakurai, Takahiro Yamazaki, Ryo Nishio, Kei Nishimura, Masaki Kimura, Masabumi Funakoshi, and Masayuki Miura, "Nutritional control of stem cell division through S-adenosylmethionine in Drosophila intestine.," Developmental Cell Volume 44, Issue 6, p741–751.e3: 2018年3月26日, doi:10.1016/j.devcel.2018.02.017.
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