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生きている細胞から臓器までpHを蛍光で簡便に計測する技術を開発 病気の解明から診断まで応用が期待される

掲載日:2018年12月21日

pH測定用の蛍光色素の図
開発したpH測定用の蛍光色素
開発したpH測定用の蛍光色素は、その化学構造を修飾することで、様々な蛍光色を有することや、測定したいpH領域に最適な蛍光色素を作ること、生体分子に結合させることができることなど、オーダーメイドで蛍光色素を作ることができます。
© 2018 花岡健二郎

東京大学大学院薬学系研究科の高橋翔大大学院生、鏡味優大学院生、花岡健二郎准教授、浦野泰照教授らの研究グループは、細胞内小器官から生体内の臓器に至るまで、生きたままで蛍光によってpHを測定する新たな蛍光色素群を開発しました。細胞内や生体内の特定の部位に集まる物質にこの蛍光色素を結合させ、生きた細胞の外からの添加や、動物の血中へ導入することで見たい部位へと蛍光色素を送り、蛍光によってそのpHを測定できます。今までの蛍光色素は内部が酸性の小器官のpHの測定は難しく、また、光の照射によって徐々に色素が壊れ蛍光が弱まるため、長時間の観察も困難でした。一方、今回の蛍光色素は光の照射により色素が壊れるのが遅く、長時間測定も可能です。さらに、見たいpHに適した蛍光色素にオーダーメイドで作り変えられるので、生きた状態で様々な細胞や臓器のpHを測ることができます。

本技術は、観察する生体への遺伝子導入を必要とすることなくpHの測定ができるため、幅広い生体での観察が可能です。これまでに、細胞内に存在する内部が酸性の小器官であるリソソームのpHの観察や、鉄輸送たんぱく質が細胞の外から細胞内に輸送される際の周辺pHの変化を観察することに成功しました。さらに、マウスの観察では、開発した蛍光色素を静脈内へ投与し、腎臓内のpHや皮下腫瘍モデルマウスで腫瘍内のpHを観察することに成功しました。

今回開発した蛍光色素群を用いることで、臓器内のpHや細胞内小器官のpHをこれまでより簡便かつ正確、リアルタイムに測定することができ、がんの画像診断への応用だけでなく、pHの異常が関与する疾患の解明に貢献することが期待されます。

「我々はこれまで新たな蛍光色素の開発に取り組んできましたが、今回、偶然にもpHに応答して吸収する光の色が変化する蛍光色素を見出すことに成功しました。さらに、この蛍光色素を用いて、生体内のpHを測定できる新たなツールを開発することに成功しました」と花岡准教授は話します。

論文情報

Shodai Takahashi, Yu Kagami, Kenjiro Hanaoka, Takuya Terai, Toru Komatsu, Tasuku Ueno, Masanobu Uchiyama, Ikuko Honda, Noboru Mizushima, Tomohiko Taguchi, Hiroyuki Arai, Tetsuo Nagano and Yasuteru Urano, "Development of a series of practical fluorescent chemical tools to measure pH values in living samples," Journal of the American Chemical Society J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 5925-5933.: 2018年4月24日, doi:10.1021/jacs.8b00277.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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