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東京オリンピックはRadioactive games? 海外から渡航するアスリートと観客のための被ばく評価

掲載日:2020年9月2日

福島市営あづま球場における空間線量率測定の様子 
あづま球場は、野球とソフトボールのオリンピック会場です。画面右下の数値(0.05 µSv/h)が、画像の地点における空間線量率です。(この測定日は2018年3月7日)
© 2020 小豆川勝見
 

東京大学大学院総合文化研究科の小豆川勝見助教、堀まゆみ特任助教、ハノーファー大学のGeorg Steinhauser教授らの研究グループは、東京オリンピック(COVID-19のため2021年に延期予定)に全ての会場の空間線量率、134Cs、 137Cs、 90Sr、 3Hの測定およびシミュレーションを組み合わせた研究によって、日本国外から参加するアスリートと観客が日本滞在中に受ける被ばく量を外部被ばく、内部被ばくの両方の推定を行いました。

福島第一原子力発電所事故発生から10年目となる2020年、特に海外では、福島原発事故に由来する放射性物質について新たな情報を知る機会は激減しています。事故初期の混乱のため、情報が誤ったまま伝わっていたり、事故当時のまま情報が更新されていないなど、現在の実態とは大きな乖離が生じていることもあります。そこで、東京でオリンピックが開催されることを契機に、海外から渡航するアスリート、観客に向けて改めて様々な測定を行い、日本訪問による被ばく量を推定しました。

日本への航空機による移動および2週間の滞在による実効線量は57–310 µSvと推定されました。この主な内訳として、航空機内の宇宙線による被ばくが10-81%、ラドン(222Rnなど)の吸引が9-47%、日本滞在時に受ける外部被ばくが8-42%となります。飛行経路によって宇宙線による被ばく量が大きく異なるためパターンは複雑になりますが、いずれにしても、2011年より続く福島原発事故によって放出された放射性核種よる影響は常に小さな役割となり、事故以前の日本と比較しても大幅なリスクの増加を引き起こしていません。加えて東京オリンピックの全ての会場の空間線量率を測定した結果、福島原発事故によって大幅に空間線量率が上昇した会場はありません。また、全会場の平均空間線量率(0.071 µSv/h)は、過去に行われたオリンピック開催都市(12都市)の平均値(0.072 µSv/h)よりも下回りました。

内部被ばくについても、福島第一原子力発電所からの主要な放射性物質である134Cs、137Cs、 90Sr、 3Hの水及び食品の詳細な測定を行いました。その結果、水と食品の需要が顕著なアスリートであっても、日本国内の食品中の放射性物質に対するリスクは低いことが明らかとなりました。

「今回の研究発表は、福島原発事故の発生から10年目となる2020年に、改めて日本の状況をより多くの方、特に海外の方に知っていただく目的も含みます」と小豆川助教は話します。「2020年8月においては、東京オリンピックの開催の是非に対してCOVID-19が最大の関心事ではありますが、本研究が日本の現状を知る一助になることを期待しています」

 

論文情報

Rebecca Querfeld, Mayumi Hori, Anica Weller, Detlev Degering, Katsumi Shozugawa, Georg Steinhauser, "Radioactive Games? Radiation Hazard Assessment of the Tokyo Olympic Summer Games," Environmental Science & Technology: 2020年8月25日, doi:10.1021/acs.est.0c02754.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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