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硫化水素を利用した生物の情報伝達の理解に大きな一歩 硫化水素センサータンパク質とヘムの関係性を示す世界初の成果

掲載日:2020年12月16日

SqrRにおける過イオウ化分子およびヘム応答機構のモデル図 
硫化水素のない条件においてSqrRはDNAに結合し、転写を抑制している。硫化水素がある条件では、硫化水素により過イオウ化分子が生成され、それにより4つのイオウを介した架橋がSqrRの分子内にできる。これによって構造が変化し、DNAへの結合能を失う。その結果、RNA合成酵素がDNAに結合して遺伝子の転写が起こる。一方、ヘムがある条件では、ヘムが結合することでSqrRの構造が変化し、DNAへの結合能を失うことで、遺伝子の転写が起こる。
© 2020 清水 隆之  

東京大学大学院総合文化研究科の清水隆之助教、増田建教授、新井宗仁教授、林勇樹助教、東京工業大学地球生命研究所の Shawn E McGlynn 准教授、東京工業大学大学院生命理工学院の増田真二准教授らの研究グループは、細菌における硫化水素を利用した情報伝達にヘムが関与することを世界で初めて明らかにしました。

近年、毒物として有名な硫化水素が、ほぼ全ての生物で様々な生理活性の調節に関わることがわかってきました。硫化水素による情報伝達では、イオウ原子が過剰に付加した低分子(過イオウ化分子)を介したタンパク質の過イオウ化修飾が重要です。以前、清水助教らの研究グループは、過イオウ化分子を検知するセンサータンパク質としてSqrRというタンパク質を同定しました。SqrRを含めた過イオウ化分子センサータンパク質のいくつかは、金属・非金属センサータンパク質の仲間であることがわかっていましたが、その意味はわかっていませんでした。

清水助教は、SqrRタンパク質を精製している際に、タンパク質溶液が黄色いことに気づきました。その後の詳しい解析から、SqrRにはヘムが特異的に結合することを突き止めました。さらに、ヘムが結合することでSqrRの立体構造が変化し、その機能を変化させることがわかりました。ヘムに含まれる鉄は硫化水素からの過イオウ化分子の生成を手助けする可能性があります。したがって、硫化水素による情報伝達では、過イオウ化分子の増加だけでなく、ヘムの増加も重要であることが考えられます。SqrRが過イオウ化分子に加えてヘムを検知できることは、硫化水素による情報伝達に速やかに応答することを可能にしていると考えられます。

今回の成果は、硫化水素を利用した情報伝達に金属・非金属センサータンパク質の仲間が関与することに意味を見出す重要な発見です。研究が進めば、硫化水素が関与する生理機能の疾患に対する新たな治療法の開発へとつながることも期待されます。

「硫化水素による生理活性の制御に関わる研究は、ここ数年で世界的に広く展開されつつあります。こうした状況の中、世界に先駆けてヘムが硫化水素による情報伝達に重要であることを示せたのは、東大で増田建先生、新井先生、林先生のご協力を得られたことが大きいと思います」と清水助教は話します。「これまでの私たちの研究から、SqrRは硫化水素による情報伝達機構を解明する有用なモデルとなると確信しています」と今後の研究の発展に意欲を示します。

 

論文情報

Takayuki Shimizu, Yuuki Hayashi, Munehito Arai, Shawn E McGlynn, Tatsuru Masuda, Shinji Masuda, "Repressor activity of SqrR, a master regulator of persulfide-responsive genes, is regulated by heme coordination," Plant and Cell Physiology: 2020年11月10日, doi:10.1093/pcp/pcaa144.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く, UTokyo Repository別ウィンドウで開く)

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