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ピコ秒で動作する超高速メモリの実現に向けた新たな進展 半導体中の強磁性ナノ微粒子からの巨大テラヘルツ応答

掲載日:2019年3月19日

半導体中の強磁性ナノ微粒子からの巨大テラヘルツ応答
半導体中の強磁性ナノ微粒子からの巨大テラヘルツ応答
強磁性MnAsナノ微粒子を埋め込んだ半導体GaAs試料に対して超短テラヘルツパルス光を照射することにより、非常に大きな磁化(M)の応答が得られることが初めて明らかになった。図では、黄色の部分がテラヘルツパルスの電界成分の強い領域を模式的に表している。
© 2019 大矢研究室

東京大学大学院工学系研究科の石井友章博士と大矢忍准教授、田中雅明教授のグループ、および東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本博教授の研究グループは、強磁性マンガン砒素(MnAs)のナノ微粒子が半導体ガリウム砒素(GaAs)中に埋め込まれたグラニュラー薄膜試料に対して、超短テラヘルツパルス光を照射し、非常に大きな磁化変調を得ることに成功しました。磁化変調の大きさは飽和磁化の約20%に相当し、強磁性薄膜を用いた従来の研究で得られていた磁化変調の大きさと比較して約20倍以上の大きな変調が得られました。

超短テラヘルツパルス光のパルス幅はピコ秒(1兆分の1秒)と非常に短く、強磁性体に強い超短テラヘルツパルス光が照射されると、この短い時間スケールでは、磁化は摩擦の影響をほとんど受けずに光パルスの波形に追従して高速に動くことが知られています。通常、磁化はナノ秒(10億分の1秒)程度で反転しますが、この技術を応用することにより、それよりも1000分の1程度短いピコ秒レベルの時間スケールで、磁化を高速に反転できるようになることが期待されています。従来の強磁性金属薄膜を用いた磁化変調の研究では、光パルスの「磁界成分」が磁化変調に寄与していると考えられてきました。しかし、東京大学の研究グループは、以前の研究で、半導体をベースとした特殊な強磁性材料をもちいると、光の磁界成分だけでなく「電界成分」を磁化変調に大きく寄与させることができることを明らかにしました。今回、研究グループは半導体中に強磁性ナノ微粒子が埋め込まれた試料を用いることにより、効率的に強い電界を各微粒子に印加できるとの予想のもと、実際に実験を行い、非常に大きな磁化変調を得ることに成功しました。本成果は将来的には、ピコ秒での磁化反転を利用した超高速不揮発性メモリの実現につながるものと期待されます。

「強磁性薄膜で見られる超短テラヘルツパルス光により誘起される磁化変調現象は、超高速の不揮発性メモリデバイスの実現につながる魅力的な現象です」と大矢准教授は語ります。「今回、半導体中に強磁性ナノ微粒子を埋め込んだユニークな材料を用いることにより、非常に大きな磁化変調を得ることができました。デバイス応用につながる重要な発見であると考えています」と続けます。

論文情報

T. Ishii, H. Yamakawa, T. Kanaki, T. Miyamoto, N. Kida, H. Okamoto, M. Tanaka, and S. Ohya, "Large terahertz magnetization response observed in ferromagnetic nanoparticles," Applied Physics Letters: 2019年2月12日, doi:10.1063/1.5088227.
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