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大学は新たな時代への社会変革を駆動するプラットフォームへ 五神総長がより良い未来に向けたビジョンを世界に発信しました

掲載日:2019年6月28日

五神総長が世界経済フォーラム (WEF)のウェブサイトに「大学は新たな時代への社会変革を駆動するプラットフォームへ」と題した記事を寄稿しました。この記事は、英語で執筆されたオリジナル版を、東京大学の協力のもと、世界経済フォーラムが抄訳したものです。

世界経済フォーラムは、世界官民両セクターの協力を通じて、世界の状況を改善していくことを目的とする国際機関です。1971年に設立された同フォーラムは、政府、ビジネス界、学術界および市民社会の第一線で活躍するトップリーダーと連携し、世界をより良くすることを目的に様々な活動を行っています。

寄稿記事の全文を転載します。以下をご覧ください。



大学は新たな時代への社会変革を駆動するプラットフォームへ(抄訳)

今、私たちは「デジタル革命」とも言えるような急激な情報通信技術の発展を経験しています。ディープラーニングなどの人工知能技術により、膨大なデータを解析し、活用することも可能となり、経済における価値創出の方法が、劇的に変化してきています。

かつて、多くの先進国では、製造業が付加価値創出の中心でした。労働集約的な産業から資本集約的な産業にシフトすることで、大きな経済成長を遂げたのです。しかし、今や、付加価値の源泉は、資本ではなく知識や情報、サービスにシフトしています。これは、知識集約型経済へのパラダイムシフトと言うべきものです。この変化は、人間社会のあり様にも歴史的な変化をもたらすでしょう。

Society 5.0の誕生

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五神 真 総長

私は、2016年に始まった政府の未来投資会議(議長:安倍内閣総理大臣)に議員として参加しています。その議論の中で、この第4次産業革命とも呼ばれるデジタル技術の革新が、複雑な社会課題を克服し、様々な格差を無くし、全ての人にとってより良い未来社会を創り出す大きな可能性を持っていることに気づいたのです。このデジタル技術によって実現される理想的な未来社会像が「Society 5.0」です。

Society 5.0は、すべての人が持てる力を発揮し、また、価値観の多様性が認められ、それが社会の発展に繋がる、持続可能でインクルーシブな社会です。東京大学も、産業界と連携してSociety 5.0の実現に向けた取り組みを進めています。例えば、日立製作所とともに設立した「日立・東大ラボ」では、スマート化技術により生活環境をより良いものとしていくことを目指し、ハビタット・イノベーションとエネルギーを2本柱として活動を続けています。

Society 5.0が描くインクルーシブな社会像は、デジタル技術革新の良い側面です。他方で、その負の側面を懸念する議論もあります。データの独占により、むしろ社会の格差や分断をより決定的なものとしてしまうリスクもあるのです。テクノロジーだけでは、私たちは良い未来社会を実現することはできません。すべての人がテクノロジーの恩恵を受け、テクノロジーを社会課題解決に役立てることができるように、社会システムや経済メカニズムを同時に変えていかなければならないのです。

大学の役割の拡大

科学技術イノベーション、社会システム、経済メカニズムの3つを、一斉に変革し、より良いものにしていくためには、高い創造性が求められます。これこそが、大学が大いに貢献できる部分です。大学の強みは、新たな知識を創造し、それらを活用できる人材を育てることにあるからです。 また、デジタル技術革新の良い側面をすべての人が享受できることを目指し、前向きに変革を進めていくためには、すべてのセクターの人々を巻き込む必要があります。未来社会へのビジョンを共有し、人々、特に社会課題への強い関心を持つ若い人々をエンカレッジして、強い意志をもって、その実現に取り組むのです。大学は、こうしたコラボレーションを生む場としても最適です。

共通ビジョンとしてのSDGsの活用

国連が2015年に採択したSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、未来社会への共通ビジョンとしても有用です。SDGsとSociety 5.0には多くの共通点があります。いずれも、科学、技術、イノベーションを用いて、インクルーシブな社会を創り出すことを目指しています。

東京大学は2017年7月に大学全体のプログラムとして「未来社会協創推進本部(FSI)」を設置しました。私たちがここで目指しているのは、SDGsを見据えて、科学、技術、イノベーションを促進していくことです。そのために、科学、工学、人文学、社会科学を含めた広範囲にわたり、私たちが持つ学術的資源を最大限に活用していきます。

FSIによる活動の例のひとつに WASSHAがあります。WASSHA は、東京大学大学院工学系研究科から生まれたスタートアップ企業で、タンザニアの未電化の村で電力を供給しています。モバイルマネーによる決済システムを使って、ソーラーパネルとバッテリーを備えた「ソーラーランタン」をユーザーに提供します。すでに約24万人がこのランタンを利用しています。WASSHAの技術が地域経済と生活の質の向上に貢献しているのです。

WASSHAの事例は、Society 5.0を実現する方法を示す好例です。データやテクノロジーを活かしたビジネスによって、インクルーシブな社会の実現に貢献しています。このアイデアは、今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で中心的な話題の1つであった、インクルーシブな経済成長、というコンセプトとも非常に近いものです。

マルチステークホルダーによる取り組み

今年のダボス会議では、安倍首相は、日本主導による「信頼ある自由なデータ流通」(Data Free Flow with Trust(DFFT))を提唱されました。これは、膨大な量のデータを、個人情報などをきちんと保護しながら安全に流通させるために世界的な枠組みを構築するというものです。こうした枠組みは、まさにWASSHAのような社会課題の解決に貢献するイノベーションを促すものとなるはずです。 DFFTの枠組みにおいて、大学は大きな役割を発揮することができます。なぜなら、私たちは信頼に基づいた世界的なネットワークをすでに構築しており、また、膨大な量のデータを扱うことのできる専門家が大学には揃っているからです。

このダボス会議の中で行われたメディアセッションで、私はPP”A”Pの重要性をお話しました。マルチセクターのコラボレーションを表す言葉として、PPP(Public-Private Partnership)がよく使われていますが、ここに大学、Academiaを加えたPP”A”P(Public-Private-Academic Partnership)がこれからは重要なのです。日本は、すでにあらゆるセクターが協働して、Society 5.0の実現に向けた取り組みを進めています。大学は、こうした活動を支える、最適なプラットフォームなのです。

経済メカニズムとの接続

2006年に国連が責任投資原則(PRI)を発表して以降、多くの投資家が環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)要素を重視した投資行動を取るようになりました。ESG投資は、リスクマネジメントを向上させ、より長期での持続可能な企業の成長と、これを通じた長期のリターンを投資家にもたらすと言われています。このため、ESGへの対応は企業にとっても極めて重要な課題となっています。ESGとSDGsは多くの共通点を持っていますから、ESGへの対応に取り組む企業が、SDGsの達成に最適な場である大学とコラボレーションをすることは、大きなメリットがあるはずです。

2017年11月には、経団連がSDGsに対応した企業行動憲章を定めました。また、翌年の11月には、経済産業省が「SDGs経営/ESG投資研究会」を設けて、企業経営とSDGsとの統合に向けた議論を開始しました。私も委員として参加しています。その成果は、この5月に「SDGs経営ガイド」として発表されました。企業や投資家が、SDGsを経営戦略や投資戦略に組み込む上での指針となるものです。この中では、社会課題の解決が企業にとっては大きな未開拓の市場であること、また、課題解決に向けたイノベーションのためには、企業と大学とのコラボレーションがカギになることが示されています。G20やTICADなどの機会を通じて、このガイドにも示されているような、Society 5.0の実現に向けたマルチステークホルダーによる取り組みの重要性が伝わることを期待しています。

SDGsを通じた企業と大学の連携をより活性化することができれば、大学は、よりよい未来社会の実現に、さらに貢献することができるでしょう。

日本の大学の優位性

また、日本の大学は、ビジネスにおいてますます重要になるデータやデジタル技術を活用する上でも、大きな優位性を持っています。日本では、全国を超高速・低遅延のネットワークでつなぐSINETという非常に先進的な学術情報通信ネットワークが展開されています。全都道府県にノード(ネットワークの接続拠点)が設置され、これらのノードは大学によって運用されています。現在、SINETの利用は大学や研究機関等に限られていますが、政府はSINETの利用拡大を計画しており、産学連携による新たな経済的価値の創造につながることが期待されています。

スタートアップ企業のエコシステムを創出

新しい技術やアイデアによって社会課題を解決し、経済的な価値を創出するためには、起業家やスタートアップ企業を支援することが非常に重要です。

先日、私たちは起業家にSINETの利用を促すためにビジネスコンテストを実施しました。日本経済新聞社が主催するグローバルAI(人工知能)カンファレンス「アプライドAIサミット」、通称アイサム(AI/SUM)の中で行われたビジネスプランコンテストでは、8チームがデータやAIを利用して難しい課題に対処する革新的アイデアを発表しました。このコンテストには日本各地から19名(その多くは大学生)が参加しました。私たちはこのようなビジネスプランコンテストを東京以外でも開催することを計画しており、革新的なアイデアを生み出す環境を全国に広げていきたいと考えています。

 

市民社会との取り組み、社会変革を駆動する大学へ

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マルチステークホルダーによる協働を進める上で最も重要な点は、「より良い社会」が指すものが実際には何であるかという明確なビジョンを共有することでしょう。それがなければ、私たちの活動は強いシナジーを生み出すことはできません。そのためには、文化的・歴史的背景や地域の特性など、様々な社会に生きる人々についての深い理解が必要です。言い換えれば、「人間とは何か」ということについて、私たちはより深く理解しなければならないのです。ここで重要になるのが、人文学によって蓄積された知の力です。私は、人文系を含め、様々な分野の知の蓄積と人材を有する大学こそが、より良い未来を創るための中心的な役割を果たす、最良の場所だと考えています。このような観点から、東京大学では、市民との対話を通じてより良い未来について考えることを目指して「東京カレッジ」を立ち上げました。

大学の役割は大きく変化してきています。20世紀の大学は、若者を教育し、社会に送り出す「人材の高い発射台」としての役割を担ってきました。しかし、21世紀における大学は、世代を問わず、あらゆるセクターの人々と連携して新しい社会・経済システムを創造し、より良い未来につなげていく社会変革のプラットフォームとしての役割を果たすべきです。

日本でG20が開催されることを踏まえ、包括的なデジタル経済および社会の構築において、日本が先頭に立って世界を導いていくことを期待しています。そして、その基盤として、大学が中心的な役割を果たすことを私は強く信じています。

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