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SDGsシンポジウム2024を開催 「サステイナビリティ(持続性)に向けたプラネタリーヘルス:健康な地球のための革新的な解決策をめざして」

掲載日:2024年4月19日

東京大学とシュプリンガーネイチャーは2024年2月27日に「プラネタリーヘルスと持続可能な開発目標(SDGs)」に関するシンポジウムを共催しました。今回は東京大学とシュプリンガーネイチャーが共催する5回目のSDGsシンポジウムであり、2019年、2021年、2022年、2023年の過去4回では、それぞれ異なるSDGsの目標に焦点を当ててきました。2024年の本シンポジウムでは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に加えて、SDGsの他の目標との接点に焦点を当てました。これは、地球規模で見られる急激な環境変化が人間や生態系の健康と持続可能性に重要な影響を及ぼす、という本シンポジウムの実行委員会の中での共通認識に基づくものです。人類と生態系の健康のために、人間活動を変革する包括的なアクションを編み出し、実行に移すことを求める声が高まっています。その一例として、健康的な食生活を実現すると同時に、気候変動、汚染、生物多様性の損失を緩和するために、食生活の変化と食料システムの変革をもたらす取り組みが世界中で行われています。このような変革的な取組みには、学術コミュニティや広く一般社会における対話を喚起するための超学際的な研究が必要です。

このような認識を反映し、本シンポジウムでは、環境変動、公衆衛生、持続可能性という横断的なテーマについて豊富な経験を有し国際的に活動する研究者を集めました。登壇者については、専門分野、所属機関、性別、キャリアの段階に関して、包摂性を達成できるよう特に配慮しました。 

開会挨拶は、東京大学未来ビジョン研究センター 福士謙介センター長とシュプリンガーネイチャー・ジャパン アントワーン・ブーケ代表取締役社長によって行われました。両氏は、人間の健康と環境変動の強い関連性によりプラネタリーヘルスが深刻な危機に瀕していることを強調し、本シンポジウムの基調を定めました。人間社会の健康と、私たちが依存している自然システムのバランスが更に損なわれれば、私たち自身と将来の世代に壊滅的な事態をもたらすことが危惧されます。

最初の基調講演では、長崎大学の渡辺知保教授がプラネタリーヘルスの定義と概念を紹介しました。さらに、渡辺教授は、地域における学際的・超学際的コラボレーションを通じて解決策を見出すアプローチの可能性について触れました。続けて、Nature 編集長のマグダレーナ・スキッパー博士が、2030年のSDGs達成に向けた中間点を迎えての進捗状況とプラネタリーヘルスへの影響、及びプラネタリーヘルス研究が実務家や政策立案者に採用され、実際のインパクトを生み出すための留意点について概説しました。

次に4人のパネリストが、環境変動と人間及び生態系の健康に関する様々な重要な問題と、それらが持続可能性に与える影響を概説しました。キム・ユンヒ准教授(東京大学)は、都市における熱曝露の健康リスクと対応に関する最近の研究について、日本の都市を事例として紹介しました。続いて、西信雄教授(聖路加国際大学)は、プラネタリーヘルスを増進するために、どのように、そしてなぜ食生活の変革が不可欠なのか、また、根本的なメカニズムを解明し、可能な対策を設計するために、システムダイナミクスをどのように利用できるのか、について述べました。鹿嶋小緒里准教授(広島大学)は、プラネタリーヘルスにおける超学際研究の必要性について、地域実践型のヘルシーエイジング活動への活用を見据えつつ批判的に論じました。西村恵美子氏(国際協力機構(JICA))は、プラネタリーヘルスに関するJICAの取組みについて、廃棄物管理システムの改善と食料システム変革に関する主要な国際プロジェクトを中心に紹介しました。

プラネタリーヘルスが非常に幅広い概念であることを踏まえ、各基調講演とパネルプレゼンテーションのテーマは、異なる学問分野のレンズを通して、環境変動と人間/生態系の健康の接点に関する様々な観点を反映できるように考慮されました。それにより、この接点において現在の主なパターン、研究上の課題、主な研究優先順位が明確になりました。 

最後に、春日文子教授(長崎大学)がモデレータを務め、全登壇者によるパネルディスカッションが行われました。このパネルディスカッションでは、環境変動と人間/生態系の健康の接点に様々な形で携わってきた登壇者の経験に基づく議論が展開されました。パネルディスカッションで討議された主なトピックは、(a)プラネタリーヘルスのための超学際性はどのように促進できるか、(b)社会の内外の不平等を考慮しつつ、プラネタリーヘルスを強化する包括的な解決策をデザインし、実施するために重要なことは何か、(c)人工知能はプラネタリーヘルスにどのような影響を与え得るか、(d)プラネタリーヘルス研究に若者や社会の周縁化された人々の声をどのように統合するか 。

シンポジウムは、東京大学 藤井輝夫総長による閉会挨拶で幕を閉じました。藤井総長は、現在の人間活動がプラネタリーヘルスに及ぼす主な影響、なぜ適切な対応策の開発にあたり学際的アプローチが不可欠であるか、そして東京大学が現在実施している主な関連する取組みについて述べました。 

本シンポジウムには世界各国から1,134名の参加登録があり、計591名が参加しました。参加者の基本的な内訳を見ると、71人が会場参加し、49か国から520人がオンラインで参加しました。オンライン参加者のうち、約70%が日本から、約30%がその他の国からの参加でした。日本以外で参加者の多かった国としては、インド(34人)、ナイジェリア(12人)、パキスタン(8人)、中国、マレーシア(各7人)などが挙げられます。学術・研究機関だけでなく、民間企業、政府機関、市民社会からの参加者も多く、本イベントの超学際的な魅力を示しています。また、実際の参加者数を正確に推定することはできませんが、学生や若手研究者の登録も多く見られました。

シンポジウムに続いて、ポスターセッションが行われ、東京大学及び国内他大学の学部学生、大学院学生が登壇者、参加者に自身の研究について発表しました。合計9名の学生から、SDGs研究について様々な角度から捉えたポスターが提出されました。このうち5名は東京大学から、4名は他大学からの参加でした。ポスターセッションでは、学生がシンポジウムの講演者や参加者からフィードバックや助言を受けていました。



写真:
[上段]左から、福士センター長、アントワーン・ブーケ氏(シュプリンガーネイチャー・ジャパン代表取締役社長)、渡辺教授、スキッパー編集長、藤井総長
[下段]パネルディスカッション(左から、春日教授、渡辺教授、キム准教授、西教授、鹿嶋准教授、西村氏、スキッパー編集長)
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