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LGBTQ学生が抱える困難 ダイバーシティ&インクルージョン研究 03

掲載日:2021年10月21日

このシリーズでは、様々な観点からダイバーシティ&インクルージョンに関連する研究を行っている東京大学の研究者を紹介していきます。

広報戦略本部 特任助教 ユアン・マッカイ

―― 研究内容について教えてください。

大学における性的マイノリティのためのキャンパス風土研究を行っています。
キャンパス風土とは、物理的な空間、人々が関わるシステム、同僚や仲間、教員とのやりとりも含めて、私たちがいる大学キャンパス全体のことです。私たちは、学部生や大学院生が大学生活をどのように体験しているか、また、特に性的マイノリティの学生が直面する課題について研究しています。身体的なハラスメントに始まり、何かを相談したいと思ったときにどの窓口に行けばいいのかわからないといったことまで、様々な問題があります。私たちは、学生がどのような問題に直面し、どのようなメカニズムで対処しているのか、そして自分では対処できないようなニーズは何なのかを研究しています。そこに大学が介入し、十分なサポートを提供する必要があるからです。欧米等では、キャンパス風土の調査は多数行われていますが、日本の大学では、性的マイノリティの学生だけを対象にした大規模で包括的な調査は行われてきませんでした。

日本の大学では、性的マイノリティの学生だけを対象にした大規模で包括的な調査は行われてこなかった ©2021 Pixels

――研究を始めた経緯を教えていただけますか?

私は2015年に東京大学のLGBTQ+職員の会を2人の同僚と立ち上げました。今では20~30人ほどの会になり、東大だけでなく関東の他大学の人たちも参加しています。また、東大のLGBTとアライ(理解・支援者)の学生団体である「TOPIA」と協力し、毎年、東京レインボープライドでブースを出す手伝いをしてきました。そうしたつながりから、3人の博士課程の学生が私のところに来て、「自分たちは東大のキャンパス風土の研究をしているので、これを拡充したプロジェクトとしてやりたい」という話を持ちかけてきました。そこで、一緒に科研費を申請し、2019年から研究を始めました。また、次の段階として、性的マイノリティの教員に焦点を当てた研究を始めようと、新たに科研費を申請したところです。

―― なぜ大学生に焦点を当てようと思ったのですか?

人生のどのステージも大切ですが、(中等教育の)性的マイノリティの生徒への支援については、文部科学省のガイドラインが作成されています。しかし、国レベルで大学に法的な拘束力があるものはなく、学生へのサポートの提供義務という点で大学は中等教育と差があります。大学向けのガイドラインがいずれ作成される際に政策に反映できるよう、学生がどんな体験をしているかを正確に知ることが必要だと考えています。
もう一つは、大学は、特に学部生にとっては人生の中でとても重要なステージであるということです。初めて家族と離れて、実家から離れた町や都市で生活することもあります。非常に大きな自由を得られる時期なのです。そのため、実家では難しかったセクシュアリティの発見など、これまでになかった自分のアイデンティティを探求することができます。大学はそれまでの束縛から解放される場所なのです。大学は、学生が成長できるよう支援し、安全な環境を提供すべきです。学問的な学びの場を提供するだけでなく、こうしたことを踏まえた心のケアも提供すべきだと思います。
ほとんどの大学は一般的な支援は行っていますが、性的マイノリティの学生は取り残されがちです。そのため、日本の大学の実情を把握して、大学が学生を適切にケアするために必要なことを指摘することがとても重要だと考えています。

―― 研究の結果分かったことは何ですか?

この調査は2部構成になっています。第1部は性的マイノリティの学生へのインタビュー調査。そして第2部は、性的マイノリティの学生とそうでない学生を対象とした全国アンケート調査です。
第1部の調査で分かってきたのは、学生が問題に対処する際の最も一般的な方法が「問題の回避」だということです。これはとても残念なことです。学生がソーシャルな環境から遮断され、仲間や教員と深く強いつながりを築けていないことを意味しています。
大学の外にコミュニティを求めている場合もあります。例えば、東京であれば、性的マイノリティの人たちが集まる新宿二丁目にコミュニティを探しに行ったり、以前から存在するコミュニティに行ったりしますが、多くの場合、身を守るためにキャンパスから離れることになります。カミングアウトできないと感じているのです。成績に影響するのではないかという不安、教員から否定的な評価されるのではないかという不安、キャンパス内の友人・知人が自分を受け入れてくれないのではないかという不安などがその要因となっています。今、第2部の全国アンケート調査でもそうした傾向が当てはまるのか調べています。

性的マイノリティの学生が問題に対処する際の最も一般的な方法は「問題の回避」だという

―― 研究にはどのような理論が使われているのですか?

性的マイノリティをはじめとするマイノリティの研究において著名な理論モデルの一つに、「マイノリティ・ストレス」という概念があります。マイノリティの人たちは、マジョリティの人たちとは違う、何らかのユニークな経験をしています。それは、性的マイノリティや人種的マイノリティのメンバーであるからこそ経験するハラスメントによるものかもしれません。また、そのようなストレスは慢性的で、1日24時間、そして人生のすべての時間に影響します。自分でコントロールできるものではありません。例えば、日本に住む東アジア系以外の人は、外国人として常に人目を引き、外国人としての自己認識をいつも持っています。
もう一つは、マイノリティは何らかの形でスティグマを感じています。自分たちの価値感が、支配的な価値観と衝突する結果、社会構造や社会システムによって抑圧されます。例えば、日本では、ゲイやレズビアンの人が結婚したいと思っても、できません。今の日本の社会制度がそれを許さないからです。単純に言うと、マイノリティ・ストレス理論とは、こうした特異で、慢性的で社会的な経験が、マイノリティの個人に慢性的なストレスを与えるという考え方です。それが、健康面でネガティブな結果につながることがあります。腎臓や肝臓などの問題や、うつ病や自殺リスク、不安感など、身体・精神両面へのネガティブな影響も引き起こす可能性があることが、研究によって明らかになっています。また、パフォーマンスの低下にもつながる可能性があります。それらを踏まえ、私たちはキャンパス風土やそこでの体験のアウトカムとして学業成績の調査も行っています。

―― 2015年、一橋大学の法科大学院の学生がパニック発作を起こし、大学の建物から転落して死亡しました。彼が恋愛感情を持っていることを告白した男子学生に「アウティング」されたことがきっかけでした。その後、状況は変わったのでしょうか?

研究者や実務家の間では、よく知られた事件であり、本当に悲しい出来事です。何かがなされなければならないという、警鐘を鳴らす契機になるべきだったと思います。しかし、正直なところ、あれからどれだけ変わったのかはわかりません。性的マイノリティへの支援は、10年前に比べて確実に進展しました。その背景には、渋谷区などでパートナーシップ制度の整備が進んだことがあると思います。しかし、それがどの程度、高等教育における変化の必要性に後押しされているのかはわかりません。
東京大学は以前に比べて性的マイノリティの学生が抱えうる問題に真剣に取り組んでいます。性的マイノリティの学生にも対応できるカウンセリングやサポートを提供したり、新入生のためのオリエンテーションに性的マイノリティに関する情報を少し盛り込んだりしていますが、まだまだごく限られたものです。本学でもダイバーシティ宣言を準備中と聞いていますが、これはとても良いことだと思います。たとえ、「私たちはすべての人を大切にします」というようなシンプルな内容であっても、性的マイノリティや障がい者などが言及されていれば、それは非常に肯定的なものになります。しかしながら、宣言は行動につながる必要があります。

取材日: 2021年8月4日
取材・文/小竹朝子
撮影/ロワン・メーラー

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