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成功への情熱が拓いたフィンテックベンチャーへの道 Entrepreneurs 10

掲載日:2022年2月3日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

国内フィンテックの黎明期に創業した株式会社Finatextホールディングス(東京都千代田区)は、スタートから約8年後の2021年12月、東証マザーズに上場を果たしました。「低コストで、スピーディな開発が可能な」クラウド型の金融インフラを提供。旧態依然とした日本の金融基盤の変革を目指す、現在大きな注目を集めるベンチャー企業です。

この大躍進を支えたのが、同社代表取締役社長CEOの林良太さんです。東京大学経済学部に在学中、「世の中にインパクトを与えたい」と起業を決意。英国留学や、ドイツ銀行ロンドン支店など金融機関勤務を経て、東大の同窓生らと株式会社Finatextを2013年12月に設立しました。その後は、「金融を“サービス”として再発明」することをミッションに様々なパートナー企業と共にサービスを提供し、現在は、三菱UFJ銀行など日本有数の大手金融機関に金融インフラを提供するまでに成長しています。今後は、「金融インフラの全面的見直しへの大きな機運もあり、Finatextを日本を代表するような企業にできる追い風が吹いている」と、将来的な世界進出も視野に入れて事業を成長させています。

20歳の誕生日前日に起業を決意

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父親も起業家という家庭で育ち、起業することに当初から抵抗はなかったという林さん。起業家を本気で目指そうと決心したのは、「20歳の誕生日の前日だった」とか。「家庭教師をやっていたのですが、そこのご家族に勧められたのが、(サイバーエージェント社長)藤田晋さんの『渋谷ではたらく社長の告白』という本でした。電車の中で読んだら、何か熱いものが湧き上がってきて、いてもたってもいられなくなりました」と、振り返ります。

その後、ホームページ制作会社や学生投資団体を立ち上げ、交流会を主宰するなど次々とアクションを起こしました。そんな林さんが「世界で活躍したい」と、卒業後に英ブリストル大学に留学することを選んだ時、大企業に就職が決まっていた同期から「遊びにいくの?」などと冷ややかに見られたそうです。また、日本で起業を決めた際も「小馬鹿にされた」と感じたそうです。

実は、この悔しさこそ、林さんの原動力になったのです。「今は馬鹿にする同期はいませんが、逆境を活力にするタイプなので、ハングリー精神を今でも大切にしています」と、今後も「Always Day 1」の気持ちで事業を運営しているようです。

アプリ開発で金融教育からスタート

「あすかぶ!」アプリのイメージ画像

Finatextの創業当初は、株価を参加者で予測するサービス「あすかぶ!」など、アプリを活用する事業から手掛けました。背景にあるのは、日本の家計の金融資産構成で、株式などが占める割合が10%と、米国(37.8%)やユーロ圏(18.2%)に比べてかなり低く(日本銀行調査統計局2021年3月調べ)、日本人は一般に金融リテラシーが低いと言われていることです。

投資は注意深く行うものですが、林さんは「株式やFX投資は何一つ難しくないのですが、『難しそう』とか、『面倒臭そう』とか思われています。投資する際の孤独感をなくすため、相談できるコミュニティを提供したい」と語り、このような取組は今後も続けたいそうです。

また、機関投資家向けビッグデータ解析サービスの提供も、2016年から開始しています。契機になったのは、株式会社ナウキャストの完全子会社化でした。同社は、東大大学院経済学研究科の渡辺努教授(Finatextホールディングス、ナウキャスト技術顧問)によって創業されましたが、林さんらが経営者として事業展開を担うことになりました。POS(商品販売時点)のデータやクレジットカードの決済データなど代替的(オルタナティブ)データの解析・分析や活用を行い、投資意思決定をサポートしています。

フィンテックで日本の金融を再生

次々とサービスを展開してきたFinatextですが、現在最も注力しているのが、クラウド型の金融インフラ構築です。最近は、三菱UFJ銀行が2021年12月に運用を開始した総合的な金融サービス「Money Canvas」の全てのシステムとインフラ構築を担いました。このサービスは、スマートフォン上で株式、投資信託、クラウドファンディング、保険などを幅広く取引できる画期的なものです。

金融インフラ構築に参入したのは、日本の金融基盤を変革したいという強い気持ちがあったからでした。日本の金融機関はバブル期、世界時価総額ランキングのトップ10に5行ほどが入るなど世界最高の水準を誇っていましたが、あれから30年、「現在は見る影もない」と林さんは指摘します。「日本の金融の基幹システムは、20年前の半導体で動かしているパソコンみたいなもので、テクノロジーで大きく遅れています。スピードも遅い上に、コストもかかります」

林さんは、「金融は経済の『血』です。ここを改革しなければ、経済全体に重くのしかかってきます。最終的なエンドユーザーが、安くて使い勝手の良い金融サービスを使えるようになれば、日本の経済がもっと盛り上がるはずです。『今、私たちがやらなければならない』という使命感を持って臨んでいます」と、意気込みを語ってくれました。

 

株式会社Finatextホールディングス

2013年、林良太氏が株式会社Finatextを東大同窓生らと設立。2018年に「株式会社Finatextホールディングス」に商号を変更。現在は、傘下にFinatext、ナウキャスト、スマートプラスなど7つのグループ会社を有する。提携先は、三菱UFJ銀行、野村証券、クレディセゾン、あいおいニッセイ同和損害保険などの金融会社や、全日本空輸などの事業会社。従業員は200人強で、さらなる「金融を“サービス”として再発明」を目指す。

取材日: 2021年10月21日
取材・文/森由美子
撮影/武田裕介

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