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米国人CTOがロボット大国・日本で起業、物流革命に貢献 Entrepreneurs 13

掲載日:2022年5月9日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

2011年に創業した株式会社Mujin (東京都江東区)は、世界で唯一の汎用的な産業用ロボット向け「知能ロボットコントローラ」を開発・販売するベンチャー企業です。従来産業用ロボットを動かすためには、各関節の角度や動作方向・スピード等を人間がプログラミングで教え込む「ティーチング」が不可欠。複雑で高コストな作業が必要なため、広範な分野へのロボット導入の妨げになってきました。

その課題に挑んだのがMujinの共同創業者、Rosen Diankov(ロセン・デアンコウ)最高技術責任者(CTO)です。Rosenさんは、同社の知能ロボットコントローラの要となる技術「モーションプラニング」の権威です。ティーチングなしで、ロボット自身が状況に合わせ、自律的に最適な動作を計算・生成するという、革新的な技術を生み出しました。米国・カーネギーメロン大学で博士課程を修了後、「研究を続けたい」と東京大学大学院情報理工学系研究科の稲葉雅幸研究室に入りました。特別研究員として2010年から1年間在籍し、ロボット大国・日本のロボット工学研究の現場で「多くを学んだ」と話します。

同社は創業以来、ロボットメーカー、製造・物流業界への製品の提供や業務提携締結を通じて事業を拡大。すでに米国や中国に支社を開設し、今後はさらなるグローバル展開を目指します。

尊敬する父親に刺激を受け、外国で起業

Rosenさんはブルガリア出身です。8歳の時に家族とともに米国・カリフォルニア州に移住しました。父親はエンジニアで、Rosenさんは「アメリカン・ドリーム」を体現していく父の背中を見て育ちました。移住先はアメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所があるラ・カニャーダで、高校時代から数学や科学に勤しむ環境にありました。

その後、カーネギーメロン大学のロボティクス研究所において「自律マニピュレーションシステムの自動構築」の研究テーマで博士号を取得。このテーマを選んだ理由には、従来のロボットへのティーチングの課題がありました。「例えばピッキング(=指定されたモノをピックアップする業務)は、対象物や周辺環境が変わると、プログラミングをやり直さなければなりません。この過程を短縮しなければ、工場や倉庫の自動化システムは普及しないと考えました」。Rosenさんの「モーションプラニング」理論は、センサーで環境を把握し、ロボットを目標位置に到達させるための最適な動きを計算し、ロボットの動作を生成するというものです。この理論をもとにした「知能ロボットコントローラ」により、自動化システムのさらに広い普及が見込まれます。

来日したのは、「日本人のロボットに対する情熱に惹かれた」から。当初から日本での起業を目指していました。また、尊敬するエンジニアの父親の生き方から受けた影響も大きかったそうです。

知能ロボットソリューション「MujinRobot」

CEO滝野さんとの運命的な出会い

日本に拠点を移す前、運命的な出会いがありました。起業を本格的に考えていた時に東京に出張し、現在、同社の最高経営責任者(CEO)を務める滝野一征さんに出会ったのです。「滝野さんは、生産方法を提案する技術営業を担当していて、現場のニーズも把握していました。自身の技術を社会実装するには、この人とパートナーを組むしかない」。そう考え、起業を持ちかけました。

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意外にも、「外国である日本で起業する苦労」はなかったそうです。滝野さんの技術とビジネスをつなげる力量に助けられたほか、事前に東大の起業支援を受けたことも大きかったと語ります。資金面においても、東大産学協創推進本部の紹介を受け、起業した翌年に東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)から7500万円を資金調達し、サポートを受けました。

現在、順調に顧客数を伸ばしています。製造業、株式会社日立物流などの物流関連会社に製品を販売するほか、ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングなどの企業と、倉庫の自動化などに関する業務提携を結んでいます。Mujinの「知能ロボットコントローラ」は、同社の3Dセンサーと組み合わせて、主要メーカーのロボットに接続可能です。

「現在、知能ロボットの事業で成功している会社は、世界でも一社もありません。我々の向き合っているところは、他の人が失敗しているところ。成功事例をつくることが最も困難な点ですが、それだけにやりがいがあります」とRosenさん。この分野における世界的な先駆者を目指します。

世界の頭脳を集めるエンジニア集団

Mujinのもう一つの特徴は、世界各国から優秀な技術者を集めていることです。東京大学、北京大学、清華大学といったアジアの有名校をはじめ、カーネギーメロン大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学など米国トップ校の出身者など、27カ国・地域から集まった多国籍チームの高い技術力をもとに、第2回日本オープンイノベーション大賞・内閣総理大臣賞(2020年)など、数々の賞を受賞しています。

Rosenさんは、「優秀なエンジニアたちと方向性を共有しながら、各々がリーダーシップをとって働いてもらいたい」という方針で、エンジニア集団を率いています。自身のモットーは「努力と根性」で、趣味はロボットを作ること。現在は仕事が中心の生活です。

Rosenさんは、「『今まで見たことがないもの』を生み出したい。例えばアップルのiPhoneのように誰もが購入でき、一般の人が簡単にロボットシステムを構築できるシステムを構築するのが目標」と語り、ロボット革命の実現に寄与していきたいという決意で話を結んでくれました。

 

株式会社Mujin

Rosen Diankov CTOと滝野一征CEOが2011年に東大アントレプレナープラザで設立した、「汎用的知能ロボットコントローラ」を開発・販売するベンチャー企業。ロボットを知能化することで、物流・製造現場における重労働・単純作業を自動化するソリューションを提供。提携先は、株式会社ファーストリテイリング、アクセンチュア株式会社、アスクル株式会社など。社員は約170人で、「ロボットの知能化で世界を変える」ミッションに挑む。

取材日: 2021年11月18日
取材・文/森由美子
撮影/武田裕介

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