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「厳しい助言」を糧にし、働き方改革を目指す Entrepreneurs 14

掲載日:2022年6月8日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

ビジネス経験に基づく個人の知見と、そのような知見を必要とする企業・個人とをマッチングするナレッジプラットフォームを展開するのが、株式会社ビザスクです。

同社を率いるのは、端羽英子代表取締役CEO。端羽さんは現在、注目すべき起業家の一人としてメディアで盛んに取り上げられていますが、東京大学経済学部を2001年に卒業してから会社設立までの11年間の軌跡は、必ずしも平坦ではありませんでした。私生活で出産、育児を経験し、キャリア面では投資銀行、外資系消費財メーカー、投資ファンドで勤務するなど、様々なライフイベントを凝縮した時を過ごすことになったからです。その中にあっても、米国の公認会計士資格を取得したり、米・マサチューセッツ工科大学(MIT)でMBA(経営学修士)を修了したりと、常に自身の成長を目指してきました。

ビザスクは設立後たちまち大躍進を遂げ、2020年、東京証券取引所のマザーズ(現グロース市場)に株式を上場。翌年には、自社より規模が約2倍も大きい同業の米企業、コールマン・リサーチ・グループを買収し、業界の世界トップを目指して、国内事業・海外展開の両軸の成長を加速させています。

自身が一人で始めた事業がこれほどに成長した裏には、「他者からの厳しい助言」と、大学時代の学びや恩師・仲間からのサポートがあったと、端羽さんは振り返ります。
 

「この人との1時間にならお金を払える」

端羽さんは、社会人1年目で妊娠して会社を辞めたことから、「日本の会社でキャリアアップしていくことがイメージできない」と感じ、起業を意識するようになりました。その数年後にMBAを取得するために留学したMITで、起業が当たり前の選択肢になっていることを目の当たりにし、改めて起業の素晴らしさを認識することに。その端羽さんに起業のタイミングが訪れたのは、当時勤務していた会社で「次のステップに向けて自身の成長が難しい」と感じたことと、子どもの中学受験とが重なったときでした。

退職後にビジネスモデルを検討していた時、知人のつてで出会ったのが、著名な経営者で、自身が当時起業しようとしていたビジネス分野で成功を収めていた人でした。ビジネスプランを説明し助言を求めたところ、すぐさま酷評されたそうです。多くの人なら打ちのめされるところですが、端羽さんは違いました。「今まで費やした時間は何だったのだろう。この人との1時間にならお金を払える」と思ったそうです。

この経験を踏まえて始めたのが、「ビザスク」です。現在は国内外45万人超が登録する日本最大級のグローバルなナレッジプラットフォームに成長し、パナソニック、三菱地所、AGCなど、日本有数の企業から利用されています。

ビザスク サービス画面イメージ

日本の課題解決を考える「グローバルな視点」は東大で学ぶ

会社設立当初、端羽さんが苦労したのは資金調達でした。ベンチャーキャピタルから「他のスタッフがフルタイム社員になっていないのは、人を巻きこむリーダーシップが足りないからだ」と指摘され、資金を調達できない状況が続きました。そんな折、目に止まったのが経済産業省の「多様な『人活』支援サービス創出事業」の公募でした。

Message

「学部時代や卒業後も、友人たちと自然に『我が国が進むべき道』を考える癖がついていました。経産省の案件も、『我が国の経済構造が変化していく中で、成長産業に人の知見がどのように流れていくか』がテーマでしたので、苦労することなく企画書を仕上げることができました」。東大在学中に身についた、「日本の活力を上げるにはどうしたらいいか」「社会を良くするには何をすればいいのか」といった日本や世界を俯瞰する視点が功を奏した形です。

東大で培った人脈も、ビジネス面で大きなよりどころになったそうです。端羽さんは、伊藤元重教授(現在名誉教授)のゼミ出身。2016年に伊藤先生をビザスクのアドバイザリーボードのメンバーに迎え、助言を受けています。また、伊藤先生の教え子で、現在は東大大学院経済学研究科の柳川範之教授には、「働き方の変革」について貴重なアドバイスをもらうことができたと話します。「柳川先生の授業は残念ながら受けたことはありませんが、伊藤ゼミの出身だと伝えましたら、快く時間を割いていただきました。柳川先生には弊社のメルマガにも登場いただき、感謝しています」

仲間を増やすことが会社成長の鍵になる

ビザスクの今後の成長の鍵は何かと問うと、端羽さんは、「良い仲間が集まってくれて、その可能性を最大限発揮し、成長してくれること」と答えてくれました。そのためには、優秀な「仲間」が入りたい会社、彼らが最大限頑張ってくれるような場所を創ることが自分のミッションだと話します。

今後の目標は、現在、業界で世界6位のビザスクをトップにすることです。コールマン・リサーチの買収で、欧米や香港の拠点を獲得したほか、シンガポールに設けた子会社はアジア全域をカバーしています。「グローバル化の中で、日本の働き方は転換期にあります。その中で、我々がどのようなグローバルなプラットフォームになれるのか、日本の働き方の変革に我々がどんな価値を発揮していけるのか、それを考えるととてもワクワクしますね」

時差の関係で、コールマン・リサーチとの会議は夜中になり、端羽さんは多忙を極めますが、週末はしっかり休むことにしているそうです。現在の趣味は、茶道。「茶道では、作法の流れに沿っていなかったり、道具の扱いがいい加減だったりすると、先生に厳しく指導されます。そうやって厳しい指摘を受ける経験が大事だと思います」と端羽さん。何事でも、専門家の適切な知見を受け入れる姿勢を貫いています。

 

株式会社ビザスク

2012年3月に株式会社walkntalkとして設立し、2015年に現在の商号に変更。経済産業省「多様な『人活』支援サービス創出事業」を2013年に受託後、2013年10月に「ビザスク」のサービスを正式リリース。2018年、経済産業省から「J-Startup」企業に選定される。2020年3月にマザーズ(現グロース)市場に上場し、同年シンガポールに現地法人「VISASQ SINGAPORE PTE.LTD.」を設立。2021年11月には米コールマン・リサーチ・グループを買収。現在は、世界190カ国以上を網羅する45万人超の知見データベースから、適切な知見を持つ人と企業とのマッチングを手がける。従業員は世界で400人以上。

取材日: 2022年3月29日
取材・文/森由美子
撮影/原恵美子

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