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コンテンツ市場に「もっと、面白く」を届ける双子の起業家 Entrepreneurs 20

掲載日:2023年4月21日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

東大起業家シリーズ20

拡大を続けるアニメ、ゲーム、コミック、グッズなどのコンテンツ市場は、現在、最も注目されている市場のひとつです。そんなコンテンツ市場の時流を読み、女性を主なターゲットとしたモバイルオンラインゲームの企画・開発・運営を手がける株式会社coly(東京都港区)を2014年に立ち上げたのが、中島瑞木・代表取締役社長です。双子の妹、中島杏奈・代表取締役副社長ら3人で始めた同社は順調に成長を遂げ、2021年には東証マザーズ(現グロース)上場を果たしました。

瑞木さんは、東京大学教養学部3年在学中にアルバイト先でインターネットビジネスに触れ、「こんなにインターネットの仕事って面白いんだ」と実感したそうです。その後、みずからインターネットメディアを立ち上げ、試行錯誤を繰り返すうちに、エンターテインメント業界へのチャレンジを決意。杏奈さんと共同で同社を立ち上げました。「“もっと、面白く”のビジョンのもと、明日を生きていく糧になるような活力を与えられる、そんな作品づくりを続けたい」と瑞木さんは今後を見据えます。主軸のゲーム事業を深化させることを前提にしながら、AI技術を活用して「キャラクター」と対話できる新しい体験の創出に向け、人材の育成と採用に力を注ぎます。

「かけがえのない存在を生み出し、広める」

株式会社colyが開発・運営をしている作品

東京・赤坂にあるcoly社オフィスのロビーでは、「スタンドマイヒーローズ」「魔法使いの約束」など同社の代表的なゲームのキャラクターパネルが訪問者を出迎えます。「キャラクターは、ユーザー様お一人おひとりにとって、かけがえのない大切な存在です」と、瑞木さんはcoly社の強みを強調します。女性をターゲットとしたゲームへの参入のきっかけとなったのは、1作目となる「ドラッグ王子とマトリ姫」のリリースにつながる作品と出会ったことでした。「エンターテインメントで、人の背中を押すことのできる力を持ったクリエイターの素晴らしい作品に出会い、この方の作品をもっと世の中に広げたいと強く思いました。クリエイターの助けや、colyに集まってくれた社員の尽力があったからこそ、今があります」と、瑞木さんは語ります。

 

「双子だからできた」

お二人はこれまで、双子姉妹それぞれの長所を活かして事業を進めてきました。瑞木さんは柔軟な対応力を活かし、事業のほか、社内業務でも手腕を発揮。一方、杏奈さんは、創造性に対する感度やこだわりを武器に、事業の推進役を担っています。

瑞木さんは、「起業するのはエネルギーが必要ですし、会社を続けるのはもっとエネルギーが必要。苦しい時期もありましたが、双子ならではの強みを活かすことで、乗り越えることができました」と、杏奈さんとの10年の軌跡を振り返ります。

また、「東大卒業生」であることも強みになっています。coly社に創業時から参加した佐々木大地・取締役執行役員は、瑞木さんの東大時代の同級生。プロデューサーとして複数のゲームプロジェクトの立ち上げを担当したほか、coly社のゲーム事業全般を指揮しています。また、東大卒業生の起業家の集まりである「東大創業者の会」にも参加し、情報交換など貴重な機会を得ているそうです。

さらに、同社の特徴は、ユーザー層に近い目線を持つ社員比率の高さです。現在、社員は総勢330名(2023年1月末)で、女性が約7割を占めています。ユーザーから社員になるケースも多く、「ユーザー目線で企画・開発を行う組織を実現しているからこそ、多くの方に響く作品づくりができる」と、瑞木さんは強調します。

AI時代に生き残る事業展開へ

Message

coly社が今後の発展のカギとして注目しているのが、AI技術です。杏奈さんは、「市場はまさに大きな転換期にあり、ChatGPTなどの対話型AIをはじめ、AI技術を事業にどのように取り入れるかが勝負になってきます。エンターテインメント業界も例外ではなく、当社でも、クリエイティブとAI技術のかけ合わせでシナジー効果を得られるよう研究を進めています」と、AI技術が今後もたらす市場革命を説明します。昨年には、内部技術者・外部専門家を中心とする「AI活用検討プロジェクト」を社内で立ち上げ、「AI×エンタメ」の先駆者を目指し、AI技術開発者の育成と採用を行いながら、プロダクトの開発も進行しています。

また、ゲームストーリーの映画館上映、キャスト登壇イベントをはじめとするリアルイベントや、テイクアウト、イートインカフェといった飲食事業など、「体験」を軸とした事業展開を加速しています。「対象の性別や年齢を制限せずに、世の中のあらゆる人にそっと寄り添うものをつくりたい。今はゲーム、グッズがメインですが、衣食住など、もっとリアルなところに寄り添えるものもつくっていきたいです」と瑞木さん。あくなき探究心で、杏奈さんと未来を展望します。

株式会社colyのメンバー
 

株式会社coly

中島瑞木・杏奈姉妹が2014年2月、共同で設立した。小さなマンションの1室からスタートし、社名は「共に」を意味する英語の接頭語「co」をもとに命名。当初は、姉妹が個人事業主として運営していたインターネット事業を継続する形だったが、2015年に「ドラッグ王子とマトリ姫」をリリースし、モバイルオンラインゲームに参入。その後、数々のヒットゲームをプロデュースしながら、外部資金を調達せずに業績を伸ばし、2021年に東証マザーズ(現グロース)に上場。上場後には”世の中をもっと面白く”する投資・経営サポートチーム「MO.inv」を立ち上げ、起業家への投資も行う。二人は、2021年11月に「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2022」(主催:日経BP社、後援:内閣府)の大賞を受賞するなど、女性起業家のロールモデルとして広く認知されている。

取材日: 2023年3月9日
取材・文/森由美子
撮影/原恵美子

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