細胞が冬眠する場所 造血幹細胞の休止に神経細胞が関与することを発見
骨髄の中にある造血幹細胞は、細胞分裂によって、毎日数千憶個もの新しい血液細胞を供給しています。通常、造血幹細胞の大多数は細胞分裂を行わない「冬眠状態」にあり、ごく一部の造血幹細胞のみが細胞分裂を行っています。造血幹細胞の冬眠は、頻繁な分裂による細胞の枯渇や異常を防ぎ、生涯にわたって正常な血液を供給し続けるための不可欠な仕組みです。
冬眠中の造血幹細胞は、骨髄中の「微少環境(ニッチ)」と呼ばれる特別な場所にいると考えられています。しかし、ニッチの場所や、どのように冬眠が維持されるのかについては、ほとんど分かっていませんでした。
東京大学医科学研究所の中内啓光教授らは、これまで造血系とは独立に機能すると考えられていた神経系の細胞が骨髄ニッチの一部であることを明らかにし、造血幹細胞の冬眠のメカニズムを初めて解明しました。
研究グループは、神経細胞の一種であるグリア細胞がTGF-βというタンパク質を活性化することにより、造血幹細胞の細胞分裂を抑制することを突き止めました。骨髄中で、造血幹細胞がグリア細胞に接触すると、TGF-βの影響を受けて冬眠状態になるのです。
近年、白血病幹細胞も骨髄ニッチで冬眠状態にあることが指摘されています。今回の成果は、造血の仕組みについての理解を深めるだけでなく、これまで原因が分からなかった白血病の再発などの病態の解明や、治療法の開発につながる重要な成果です。
論文情報
Satoshi Yamazaki, Hideo Ema, Goran Karlsson, Tomoyuki Yamaguchi, Hiroyuki Miyoshi, Seiji Shioda, Makoto M. Taketo, Stefan Karlsson, Atsushi Iwama, Hiromitsu Nakauchi,
“Nonmyelinating Schwann Cells Maintain Hematopoietic Stem Cell Hibernation in the Bone Marrow Niche”,
Cell Vol. 147, Issue 5, pp. 1146-1158. doi:10.1016/j.cell.2011.09.053
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