ハブが壊れても機能が維持されるネットワーク つながりの少ない要素の重要な役割
細胞の代謝系、神経回路網、インターネット、そして人間関係など、わたしたちの世界に存在する様々なネットワークには、スケールフリー性という共通の構造があることが分かっています。すなわち、非常に多くの要素とつながっている「ハブ」がごく少数存在し、その他の大部分の要素は他の要素とのつながりをあまり持っていないという構造です。
これまで、スケールフリーネットワークの故障耐性におけるハブの重要性はよく指摘されてきました。しかし、つながりの少ない要素がネットワーク全体においてどのような役割を果たしているのか、これまで分かっていませんでした。
東京大学生産技術研究所の田中剛平特任准教授と合原一幸教授らは、つながりの少ない要素がネットワーク全体の動的現象に非常に大きな影響を与えることを初めて示し、ネットワークの動的安定性に関する基礎理論を確立しました。
彼らは、振動子が連結したネットワークモデルを用いました。そのモデルでは、故障した振動子は単体では振動できませんが、隣接する要素との相互作用により弱い振動を保つことができます。この振動子を、ランダムまたは選択的に故障させるシミュレーションを行ったところ、ハブ的要素の故障よりも、つながりの少ない要素が故障した場合に、ネットワーク全体の振動の維持が非常に難しくなることが分かりました。
構造の強さを支えるハブの重要性に加えて、動的安定性を支えるつながりの少ない要素の重要性を明らかにした本成果は、震災時に機能する電力網の開発や、脳や心臓の疾病進行の理解に役立つ基礎理論になりえると期待されます。
(広報室 南崎 梓, ユアン・マッカイ)
論文
Gouhei Tanaka, Kai Morino, and Kazuyuki Aihara
“Dynamical robustness in complex networks: the crucial role of low-degree nodes,”
Scientific Reports Vol 2 article number 232. 25 January 2012. doi:10.1038/srep00232
論文へのリンク