予想外の2ステップ再生法 肝臓の驚異的な再生能力を支える肝細胞の作戦
肝臓は非常に高い再生能力を持っています。マウスの肝臓を70%切除しても、元の重量と機能が復元されます。この驚異的な再生能力は、肝臓の大部分を占める肝細胞が分裂して細胞数を増やすことによって実現していると考えられてきました。しかし、その直接的証拠はありませんでした。
東京大学分子細胞生物学研究所の宮岡佑一郎助教(現・米国グラッドストーン研究所博士研究員)と宮島篤教授らの研究グループは、マウスのごく一部の肝細胞に目印となるタンパク質を作らせることに成功し、肝細胞を詳細に観察しました。すると、肝細胞の細胞分裂の回数は、予想を大きく下回るものでした。
実は、肝細胞は分裂の前に肥大していたのです。そして肥大だけでは不十分な場合のみ、細胞分裂によって数を増やして肝再生をすることがわかりました。さらに、肝細胞のうち30%程度存在する2つの核を持つ肝細胞が、非常に特殊な細胞分裂によって1つの核を持つ肝細胞を2つ生み出し、細胞数を増やしていることもわかったのです。
代謝や解毒など500以上もの機能を持つ体内の化学工場である肝臓は、その多機能性ゆえに、人工臓器の実用化は非常に困難だと言われています。現在、重篤な肝臓疾患の治療には肝移植が行われています。肝再生のメカニズムに迫る本成果は、より安全で効率的な治療法の開発に繋がると考えられます。
しかし、なぜ臓器の中で肝臓だけがこのように高い再生能力を持つのでしょう。今回初めて証明された肝細胞肥大のような特殊な性質が、その手がかりとなるかもしれません。
(東京大学本部広報室 南崎 梓 ユアン・マッカイ)
論文情報
Yuichiro Miyaoka, Kazuki Ebato, Hidenori Kato, Satoko Arakawa, Shigeomi Shimizu, Atsushi Miyajima,“Hypertrophy and Unconventional Cell Division of Hepatocytes Underlie Liver Regeneration,”
Current Biology, Volume 22, Issue 13, 1166-1175, 31 May 2012. doi:10.1016/j.cub.2012.05.016
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