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洋上風力発電 研究者によるキーワード解説

掲載日:2013年7月3日

洋上の風速は強勢で乱れが小さい。また敷地の制限が少なく,陸上に比べ景観や騒音等の環境問題が少ないことから,世界各国は,野心的な目標を掲げ,次々と大規模洋上風力発電所の建設を始めている。2012年末に世界の洋上風力発電の設備容量は542万kWに達し,31%の年成長率を記録した。2012年末に完成した世界最大の洋上風力発電所の設備容量は63万kWに達し,原子力発電所とほぼ同規模である。一方,わが国では2013年初めに茨城県神栖市の沖合に15基の2000kW風車が建設され,約1万5千世帯分の電力を提供している。

図1. 浮体式洋上風力発電システムの完成予想図
© Takeshi Ishihara.

2006年における東京大学の調査では,関東沿岸から50kmの全海域を対象とした場合の総資源量は2005年の東京電力の年間販売量とほぼ同じであることを明らかにし,太平洋沿岸は風況が良く,大規模洋上風力発電施設は大きな可能性を秘めていることを示した。しかし,欧州に比べ,わが国の海底地形は急峻なため,水深の深い場所に建設可能な浮体式の支持構造を用いる必要がある。そのために,東京大学はこれまでに国内の電力会社,風車や造船メーカ,建設会社と一緒に,浮体式の支持構造に関する研究開発を行い,セミサブ型,スパー型,TLP型の浮体構造を提案すると共に,その実用化に向けた研究開発も行っている。図1には浮体式洋上風力発電システムの完成予想図を示している。

風力発電はCO2を排出せず,ウランや化石燃料のように外国に頼らない国産エネルギーである同時に,世界的に先行して導入されているため,コスト優位性をもち,産業振興や雇用効果も大きい。雇用創出効果は100万kWあたり約1万5000人である。2012年末に世界の風力発電設備容量は2億8259万キロワットに達し,風力発電への投資は全発電施設の新規投資の5分の1を占め,8兆円を超える産業となっている。風力発電のコストは現時点で火力発電により若干高いが,発電費用の6割は輸入化石燃料費で賄う火力発電に比べ,技術大国日本では国産風力発電の費用のほぼ100%は国内還流することが可能である。今後わが国における風力発電の本格導入は全国規模の電力不足の解消に貢献すると共に,東日本大震災での被災地域の復興に大きな役割を果たすと期待している。

石原孟 教授

工学系研究科

工学系研究科 社会基盤学専攻

(この記事は淡青25号「再生のアカデミズム」に掲載されました。)

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