未来への布石:ダイバーシティを広げる | 総長室だより~思いを伝える生声コラム~第13回
東京大学第30代総長 五神 真
未来への布石:ダイバーシティを広げる異分野の研究者と共に新しい学問を創る、それは東大の重要な魅力です。そのためには部局を越えた連携が重要で、それを促進する仕組みとして連携研究機構制度を導入しました。昨年7月に文系部局による最初の機構としてヒューマニティーズセンターが設置されました。今般LIXILグループと潮田洋一郎・同社取締役会議長のご支援により、総合図書館の4階に「LIXIL潮田東アジア研究拠点」を開室しました。この開室記念式典が7月24日に伊藤謝恩ホールで行われ、私も参加しました。
まず、第26代総長の蓮實重彦先生が「『ポスト』をめぐって」と題して講演されました。蓮實先生は、接頭語としての「ポスト」は、対象の概念を殺戮すると同時に曖昧な形で延命させてしまうと鋭く指摘されました。続くラウンドスピーチで、私は、良い社会作りには人文系の知恵が不可欠と述べ、続いて潮田氏から、所蔵美術品の紹介も交えつつ、この先の社会がどうなるか、過去を振り返ることで考えたいと思い東大で学び直したというお話がありました。 パネル討論の終盤で、蓮實先生から、東大生の男女比の偏りが一向に改善されていない、女子学生枠を設けてでも是正すべきというコメントが突然飛び出しました。少々戸惑いましたが、これは私も常々考えている課題です。東大を受験しなかった優秀な女子学生が東大を志願するようになれば、女子学生比率はもちろん、全体のレベルも必ず上がるはずだと発言しました。蓮實先生は総長として、東大の男女共同参画に先鞭を付けられました。それから20年、教員や学生の女性比率は多少改善はしているものの、効果は限定的です。東大で学ぶのに相応しい学生は男女を問わず多くいるのに、学部の受験者・入学者の男女比が大きく偏っているのは、本来東大で学んでほしい学生を十分惹きつけられていないことを意味します。海外の有力大学では男女比はほぼ半々ですし、東大でも留学生の女性比率はずっと高いのです。海外で活躍する方々からは、今の女子学生比率の低さは問題だ、国際社会から東大は遅れていると見られる、と言われます。これは、東大にとって深刻で、早急な対応が必要です。まず、入学後の学生生活を女子学生にとって過ごしやすい環境へと改善することです。インクルーシブな社会づくりをめざす東大としては、LGBT等にも配慮したダイバーシティを重視したキャンパス環境造りを進めるべきです。多目的トイレの整備などは、目に見えてわかりやすい施策かもしれません。誰にとっても過ごしやすいキャンパス環境を目指したいと思っています。「学内広報」1513号(2018年8月27日)掲載