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知のバトンゾーンとしての図書館(前編) |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第15回

掲載日:2018年11月1日

東京大学第30代総長 五神 真

知のバトンゾーンとしての図書館(前編)


  10月2日、総合図書館のリニューアルを記念する「リレートーク」の皮切りとして、熊野純彦附属図書館長と私の公開対談を別館ライブラリープラザ(LP)で行いました。LPが本来予定されていた「会話ができるアクティブな空間」として運用が開始されたのを機に始まったものです。LPは今回の総合図書館大改修を機に整備した、新図書館計画「アカデミック・コモンズ」の中心となる場です。大噴水の底を天窓の明かりとりとするという大胆なデザインで、地下に広がる円形のスペースで、人々が集い語る場として設計されました。本郷キャンパスの新たなシンボルとなるものです。リレートークでは、熊野先生と私の学生時代からの図書館にまつわる思い出を語りながら、デジタル化時代における図書館の意義、あるいは学術資産としての書物の役割、そしてそれを未来に繋ぐ責任などについてそれぞれの思いを語り、話が弾みました。

  現在総合図書館には約130万冊、東大の附属図書館全体では約970万冊の蔵書があります。これは先人たちの献身によって守り受け継がれ、蓄積されてきたものです。たとえば、関東大震災では旧図書館が全焼し、ほとんどの書物が失われてしまいました。ロックフェラー財団からの寄附をはじめ、国内外からの図書寄贈などによって、現在の総合図書館が再建されました。その記録として、ロックフェラー氏から当時頂いた手紙を総合図書館3階に展示しています。第二次大戦末期には、大震災での経験をもとに、貴重な書物や文化財を疎開させ、空襲から守ったという話も伝わっています。こうして書物が受け継がれ、それを実際に手にする中で知が未来に伝えられていく、知の時空間の広がりを実感する大変貴重な場、それが図書館なのです。

  今では学術文献の大半はインターネットで検索でき、本文にも即座にアクセスできるようになりました。しかし、オリジナルの書物を手にするとまた違った感覚が伝わります。私自身も1978年に物理学科に進学した頃、湯川秀樹博士の中間子理論の原著論文を教室図書室の書架から取り出し、手に触れたときの感動を今でも思い出します。今回の本格改修の目玉は、LPの地下に設置された300万冊が収蔵できる巨大な自動化書庫です。書架の合間をさまようことこそできませんが、多くの学生・研究者が集まる本郷キャンパスに書物そのものを置き、随時手に取ることができる環境は非常に重要です。この自動化書庫は東京大学の次の70年、UTokyo3.0の知を支える設備となるはずです。
(次号につづく)

 

 

「学内広報」1515号(2018年10月25日)掲載
 

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