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知のバトンゾーンとしての図書館(後編) |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第16回

掲載日:2018年12月3日

東京大学第30代総長 五神 真

知のバトンゾーンとしての図書館(後編)


  総合図書館別館のライブラリープラザでのリレートークの話の続きです。学生時代の図書館の思い出の話をする中で、それぞれの駒場時代に話が及びました。将来の夢を迷いながら求めていた時期です。最終的には物理学科に進みましたが、数学や建築、あるいはエンジニアになるかなど、様々な可能性を模索しながら駒場時代を過ごしました。トークでは、今も鮮明に記憶している、駒場の大教室での哲学概論の講義の話になりました。実は、その講義で熊野純彦附属図書館長と私が同じ講義室にいた可能性が高いこともわかりました。

 講義の合間に、図書館で、書架に並んでいる本を背表紙をたよりに何気なく取り出して読むということを楽しんでいました。あるとき取り出した本の中で、結晶成長の速度を理論的に予測することは大変難しいという記述を見つけました。飽和溶液から結晶の核が生まれ、それが結晶へと成長するプロセスについて、どのぐらいの速さで成長するかということを予測することは最先端の物理学でも極めて難しく、計算結果が実験事実とまるで合わない、というのです。この記述を見つけたことが、私が固体物理学に興味を持ったきっかけとなりました。図書館が、時代や分野を超えた知との遭遇を可能にするということの実体験です。

 今、資料のデジタル化が進み、最先端の研究の現場において、必要な学術情報はほとんどオンラインで手にすることが出来ます。私自身、この20年ぐらいは図書館に行く機会はめっきり減りました。しかし、研究を進めていると、すこし違った視点をもつことが重要になることがあります。そのような時に、先人が死にものぐるいで守ってきた書籍に触れ、ちょっとわき道にそれてみることも重要なのです。思いがけない出会いをする場として、書籍を集積する図書館は現代においても大変貴重なのです。

 ライブラリープラザは会話もしながらインタラクティブに学び、知を共に生みだすという新しい機能を持った空間です。これは、東大が培ってきたこれまでの知と新たな知の出会いを意識的に生みだすための場とも言えます。それは、紙媒体を中心に人類が培ってきた知の文化をデジタル時代に着実に受け渡すための「バトンゾーン」とも言えるかもしれません。是非ライブラリープラザを大いに活用しましょう。

 

「学内広報」1516号(2018年11月26日)掲載
 

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