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未来地図を描く:大学の新たな役割を |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第20回

掲載日:2019年4月4日

東京大学第30代総長 五神 真

未来地図を描く:大学の新たな役割を

 

 2月5日、総長として2冊目の著書『大学の未来地図̶「知識集約型社会」を創る』(ちくま新書)を上梓しました。「未来地図」に込めた想いをお話ししたいと思います。

 4年前の総長就任以降、特に感じるのは世の中の変化の速さです。経験したことのないゲームチェンジが世界全体で起きつつある今、大学こそがその変化を先取りし、社会を良い方向にむけて変革を駆動すべきであり、それができるはずだと確信しています。私が総長として知っている大学の実像に基づく潜在力の高さがその根拠です。しかし、これは大学外の人が描く大学像とは大きな隔たりがあります。政府の審議会をはじめ、様々な場でしばしば「大学を変えねば」というご意見に接します。大学が進化していることがうまく伝わっていないのです。現在の大学の真の姿を広く伝え、多くの人に「今こそ大学を頼りにしたい」と思っていただくために、この本を著しました。

 デジタル革命をきっかけに、経済社会を支える価値観が、これまでのモノから知識や情報へと転換する、知識集約型社会へのパラダイムシフトが起きつつあります。一方で温暖化や環境汚染など地球規模の課題はさらに深刻化しています。その中で、前号でも触れたインクルーシブさの追求こそが、より良い未来へ向かう道筋であることは間違いありません。大学の本領は新しい知を生み出すことですので、その大学こそが変革の中心となるべきというのは、未来から遡って考えるとごく自然な発想です。しかし、我々は過去から現在の延長線として未来を捉える議論に慣れており、未来から逆算して考えることは苦手なのです。

 18歳人口がこれから減るので、それに備えて大学の規模を再検討しようという大学改革の議論はその典型です。知識集約型社会において、大学に既にそなわっている知を創造する資源は極めて重要なのです。団塊の世代が後期高齢者となる2025年まで時間はありません。東大だけでなく、日本全国の大学が持つ力を決して過小評価してはなりません。

 この4年間、上記のような想いで学内外の多くのメンバーと共に大学改革を進めてきました。その具体的な方法論も本書にまとめています。知識集約型社会における大学の重要性に鑑みれば、これを「日本再興プラン」と呼んでも過言ではないかもしれません。このプランを広く伝え、賛同者を増やすことで、世界に先がけてより良い未来を選び取る、それが本書で伝えたかった「未来地図」なのです。今こそ大学の出番です。未来へむけて、力を合わせて努力していきましょう。

 

 

「学内広報」1520号(2019年3月25日)掲載
 

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