自分にしかできないことをやろう | 総長室だより~思いを伝える生声コラム~第22回
東京大学第30代総長 五神 真
自分にしかできないことをやろう
4月12日に行われた平成最後の入学式では、今年も、意欲溢れる新入生を多数迎えることが出来ました。大学院入学式では、2017年秋に発足したニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)のヘンシュ貴雄機構長から大変すばらしい祝辞をいただきました。
ヘンシュ先生は、ハーバード大学小児病院の教授として研究グループを率いながら、IRCNの立ち上げに取り組んでおられます。ヘンシュ先生はハーバード大学の学生時代に、本学医学部の伊藤正男先生の脳科学の本に出会って強い衝撃を受け、伊藤先生を慕って来日、大学院は東大で学ばれました。ヘンシュ先生にとって、伊藤先生は心から尊敬している最高のメンターです。祝辞では、恩師から学んだ5つの大切なポイントを紹介され、その中の、2番目のアドバイス”Choose something that only you can do. Be unique in the world”をここでも是非紹介したいと思います。人生をかけて挑戦する目標の選択は、研究者に限らずとても重要です。ヘンシュ先生は伊藤先生のこの言葉から、自分の幼少期の体験との繋がりから興味を持った、脳を発達させる仕組みこそが自分のテーマだと感じたのだそうです。ドイツ人の父と日本人の母の間に日本で生まれ、3歳でアメリカに移ったヘンシュ先生にとって、3つの言語を操るのはごく自然なことでした。フランス語の授業で同級生が大変苦労していたのに自分はすんなり学ぶことが出来、自分の特長に初めて気づいたそうです。それが自分にこそ見える世界だと感じ、ヒトの成長過程で脳がどう発達するのかということに大変興味を持ったのです。
研究とは、誰も未だ知らない知を生みだす作業です。研究者が取り組む課題は様々ですが、テーマの見つけ方を教えることは簡単ではありません。ここで、「自分だけができることをやれ」というのは重要なヒントです。自分だけにできることを探すには、自分が何者かを知り、自分が何にワクワクするかを問うことも大切です。ヘンシュ先生の祝辞はこれから研究を始める人だけでなく、研究者、あるいは他分野で既に活動する人にも役立つアドバイスです。祝辞は全学サイトに掲載されていますので、是非一読してみてください。
ヘンシュ先生から祝辞をいただく幸運に恵まれたのは、伊藤先生とのつながりがあってこそのことです。そのヘンシュ先生が、高い志を持ち多くの可能性を秘めた学生たち若き研究者たちに、さらなる高い山を目指して登るきっかけを作って下さることを楽しみにしています。
「学内広報」1522号(2019年5月27日)掲載