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新しい日常の創造|総長室だより第27回 思いを伝える生声コラム

掲載日:2020年7月1日

東京大学第30代総長 五神 真

新しい日常の創造

 

 5月25日、政府による緊急事態宣言の解除を受けて、東京大学の活動制限も緩和に向かっています。しかし、東京都の感染者数はなかなか収まらず落ち着かない毎日です。通常であれば、講義や実験あるいは課外活動などのキャンパス生活を満喫しているはずです。しかし今年は様子が全く違い、講義はオンラインのみ、とりわけキャンパスでの新しい大学生活を楽しみにしていた新入生のみなさんには申し訳なく思っています。

 大学は様々な人々が集い、顔を合わせ、それぞれの考えを自由に語ることが許されている場です。この大学の根本の機能が制限されているのです。とはいえ、これが永久に続くわけではありません。今は、私達が当たり前と考えていた日常の価値を再考し、その先の未来について前向きに考える機会としたいと思います。

 

 私達はインターネットを介してサイバー空間を参照することにすっかり慣れています。スマホやパソコンでの遠隔接続はwith コロナ生活に欠かせません。オンライン講義、オンライン会議のおかげで大学も活動を継続できています。便利だと思うことも多々ありますが、やはりリアルな交流とは違います。一日オンライン会議を続けると、夕方にはぐったりです。しかし後戻りはできません。サイバーとフィジカル、バーチャルとリアルの二つを賢く行き来しながら、ポストコロナの新しい日常を創造していかねばなりません。

 

 さて、東京大学は11の世界トップ研究大学による国際研究型大学連合(IARU)に加盟していますが、4月のケープタウンでの学長会議は中止となりました。しかし先日、議長である私の発案で、オンライン学長会議を行うことになりました。どの大学もオンキャンパスでの活動は停止に追い込まれ、たいへんな苦労を経験していました。足止めされた留学生を本国にある連携校と協力して支援することや、オンラインでの講義のシェアや学生交流などが提案されました。感染には、地域、人種、ジェンダー、障がいの有無、貧富の差はありません。その一方で、コロナ禍で社会に、むしろ分断と格差が拡大していることも、学長たちとの討議から浮かびあがってきました。普遍的価値の追求である学問に、国境はありません。その意義を共有していることに支えられた信頼と共感の力を再認識しました。分断に向かう世界の中で、アカデミアのネットワークは国際協調とコモンズ構築の鍵となるはずです。

 

 感染症との戦いは長期化しますが、必ず終息します。この困難を学びのチャンスととらえ、希望をもって共に新しい日常を創っていきましょう。

 

 

「学内広報」1535号(2020年6月24日)掲載
 

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