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「資源という可能性の束」の先にあるもの。 | UTOKYO VOICES 012

掲載日:2018年2月20日

UTOKYO VOICES 011 - 「資源という可能性の束」の先にあるもの。

東洋文化研究所 教授 佐藤 仁

「資源という可能性の束」の先にあるもの。

文部省官僚の父がユネスコに出向していた関係で、子ども時代はナイジェリア、タイ、フランスなど、異国の地で暮らすことが多かった。それで世界の多様性に目が向いたのだろう。佐藤少年はパリの日本人小学校の卒業文集で「外交官になりたい」と書いている。

その後は日本に戻ったが、高校時代に交換留学生として数カ月をニューヨーク州で過ごした折、アメリカの高校生活でカルチャーショックを受けた。人種や能力による明らかな階級差の存在。アジア人であることに初めてコンプレックスを感じ、「頑張ってアピールしなければ勝ち残れない世界で、自分はどの分野で頑張ればいいのか」を考えるきっかけとなったという。

東大教養学部に進み、途上国の役に立ちたいと国際開発分野の研究を志す。大学院ではタイで2年にわたるフィールドワークを実践し、奥地の村で森林保全の政治性を研究する中で、「アジアは合う」と感じた。

そして、東南アジア地域を対象に、「資源の管理が人間の管理へと、いかに化けていくか」に研究の主題を見出し、「資源」の概念に取りつかれるようになる。日本における資源論の歴史を見ていくうちに、自らの研究の根幹をなす「資源は可能性の束」という概念の「再発見」に至る。

「資源とは可能性であり、それをどう使っていくかは人間が決めていくべきもの。目の前にある資源の先に何を見るかが重要であり、自身が上流と下流を俯瞰して見渡せる自由な立場にあることを大切にしたい」と佐藤は考えている。

興味を持つと、どこから始まったのか、大元を辿りたくなる癖がある。そうやって深掘りしていくと、どんなテーマも根底ではつながっているような、歴史学に近づいていくような、不思議な気持ちになるという。「今、自分がやっていることと昔のことは関係ないと思われがちだが、それは違うと思います」

また、昔から教育に関心があり、「学生の記憶に残る授業がしたい」と願いながら日々の指導に当たる。「良い教育制度とは何か、ということが人生の隠れテーマなのかな」と感じることがあるらしい。

ここ数年は、1年のうちの4カ月をプリンストン大学の客員教授として過ごし、その経験を『教えてみた「米国トップ校」』(角川新書)にまとめた。2010年にサバティカルを利用してアメリカに滞在した折、当地で学びたいという子どもたちの要望を受け、向こうで仕事を探したことが今につながった恰好だ。

米国との二重生活を「ある意味、人生を変えた出来事だった」と振り返る佐藤は、「いい偶然に支配されながら生きてきた」と笑い、「自ら道を切り拓いてきたとはとても言えない」と謙遜する。

「人は自分が面白いと思ったこと、アイデアとして残す価値があるものをやるべきで、それができている自分は幸運だと思う」と語る一方で、「いつまで、この仕事をやっているのかなあ」と、今の立場に固執はしていない。

50歳という節目の年齢に差しかかり、次の研究テーマはもう決めてあるというが、その先をどうするか、「もっとリアルなことをやってみたい気もする」という。佐藤が次に選ぶステージにはどんな可能性の束が眠っているのだろうか。

取材・文/加藤由紀子、撮影/今村拓馬

Memento

ハーバード大学大学院で、後にアジア人初のノーベル経済学賞受賞者となったアマルティア・セン教授から「A(優)」をもらった厚生経済学のレポート(1993年5月)「開発、文化、生活水準」。「彼の授業を受けるために留学したので本当に嬉しかった」という

Message

Maxim

地位や名声など、図書館にも棺桶にも入らないものには頓着すべからず、という自分への戒めとして

プロフィール画像

佐藤 仁(さとう・じん)
1992年東京大学教養学部教養学科卒、1994年ハーバード大学ケネディ行政学大学院修士課程修了、1995年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授、東京大学東洋文化研究所准教授、プリンストン大学東アジア学部客員准教授を経て、現在は東京大学東洋文化研究所教授(総長特任補佐)とプリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール客員教授(Global Scholar)を兼務。主な著書に『野蛮から生存の開発論』(ミネルヴァ書房)、『「持たざる国」の資源論』(東京大学出版会)などがある。第10回日本学士院学術奨励賞、第21回国際開発研究大来賞などを受賞。
※写真はプリンストン大学での授業風景(本人提供)

取材日: 2017年12月4日

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