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「考え方」を発見する。 | UTOKYO VOICES 014

掲載日:2018年2月27日

UTOKYO VOICES 014 - 「考え方」を発見する。

大学院医学系研究科・医学部 生化学・分子生物学講座 教授 水島 昇

「考え方」を発見する。

水島は天命とも言える研究テーマ“オートファジー(自食作用)”と恩師に出会ったことを、今でもはっきりと覚えている。

「医者だった20年前、『生化学』(1997年1月号)に掲載された総説「酵母の自食作用」をたまたま読んで、6月にはその著者で2016年にノーベル賞を受賞する大隅良典先生(当時岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所)の研究室があった岡崎に家族で引っ越しました」

それまで、名前も知らなかった大隅先生の総説は“研究を始めてみたが、オートファジーはわからないことだらけ”という異例なもので、「それが面白かったのです」と水島は話す。

細胞が自身のたんぱく質や小器官を分解する仕組みで、生命維持に重要な働きをしていると考えられているオートファジーだが、当時はまだあまり知られていなかったこともあり、臨床医が畑違いの研究に移ることについては周りから無謀だと反対されたという。

しかし、オートファジーは「多くの生物が有しているという普遍性があり、誰もやっていない分野だからこそやりがいがある」と、医学から基礎生物学へと軌道を変更した。

高校時代は数学と物理が好きだったが、当時の生物学は生命現象をDNAなどで説明できる勢いを感じ、分子生物学のある理学部への進学を考えた。ただ、「医学部に行けば体全体のことを学べるし、好きなテーマの研究もできる」と東京医科歯科大学医学部に入学。卒業後は医者として診療しつつ研究も続けていた。

30歳になって大学院も修了し、「定年まで35年間、医者を続けるか研究をとるかを考えた結果、研究の方が向いている」と留学の受け入れ先を探していた頃に総説に出会い、それが運命の分かれ道となった。

大隅先生に7年師事した後、水島が作出したオートファジーを可視化できるマウスを使い、出生後や受精後にオートファジーが起こることを発見した。出生直後や、着床までの1週間は細胞内を自食して栄養としていたのだ。「気がつけば当たり前でコロンブスの卵ですが、発生学の素人だったことが幸いした成果」であり、『ネイチャー』や『サイエンス』にも掲載される大発見につながった。

最近の研究でオートファジーのプロセスが詳しくわかってきたという。オートファジーは、細胞内の一部を取り囲んだオートファゴソームと、分解専門の小器官であるリソソームが融合することで成立するが、「オートファゴソームとリソソームが融合する仕組みの一端がわかり」、論文は『CELL』(2012年12月号)に掲載された。「しかし、オートファゴソームの口が閉じたということを、細胞がどのように感知しているかはまだわらないのです。細胞生物学と位相学を結びつけるきっかけになれば」と、水島は話す。

「研究者は一喜一憂しない、特に一喜しないことが大事です。間違っていることの方が多いからです。一喜すると視野が狭くなります」と、水島は自らを戒めている。そして、「新しいモノの発見は、たまたま初めて見たというに過ぎません。それを通じて新しい考え方をみつけることが研究の面白さなのです」と言う。

30歳でオートファジーに出会った水島は、「20代で無理に進路を決める必要はないと思います。これだと思うテーマに出会ったときに、躊躇なくできるよう基礎体力を培っておくことが大切」と、学生にアドバイスしている。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

Memento

通勤ではBOSEのノイズキャンセリングヘッドフォンで、バッハやベートーヴェンに聞き入る

Message

Maxim

数学者・吉田耕作の言葉を実践している。「研究結果のデータはすべて具体的であり、私たち研究者はデータに隠れていることを抽象化しなければなりません。それが新しい考え方の発見につながるのです」

プロフィール画像

水島 昇(みずしま・のぼる)
1991年、東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学院博士課程を修了して医学博士に。2001年より岡崎国立共同研究機構の基礎生物学研究所助手として、大隅良典教授の研究室にてオートファジー研究に没頭。その後、東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所室長などを経て2012年より東京大学大学院医学研究科教授(現職)。日本学術振興会賞や武田医学賞、トムソン・ロイター引用栄誉賞など受賞多数。

取材日: 2017年12月19日

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