科学をアートする心を大切に。 ｜ UTOKYO VOICES 032

シルバーマン家の父は、材料科学や計算生物学などのさまざまな分野に貢献したIBMの理論物理学者だった。一方、自らクラリネットやピアノなども演奏する、音楽愛好家でもある。二人の息子達はそんな父の影響を受けて育ち、兄はギタリストに、そしてジョンは科学者になった。天体望遠鏡で星を眺めるのが好きだったジョンは「宇宙の謎を解明したい」という、子供時代からの夢を膨らませていったのである。

彼の研究は、ハワイの「すばる」や「ケック」、南米・チリの「アルマ」（アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計）などの超大型光学赤外線望遠鏡や、「ハッブル」や「スピッツァー」、「チャンドラ」などの宇宙望遠鏡を駆使して行われる。その研究テーマは「宇宙の歴史の中で、銀河がどのようにして生まれ成長していったのかを探る」という壮大なものだ。国際間連携を基盤とした研究努力が効を奏し、彼のチームは、若い宇宙であっても現在と同様の環境下でも、超巨大ブラックホールと銀河は共進化することを明らかにした。

ボストンで知り合い、ヴァージニアで結婚した妻は、日本人の熟練した現代抽象画家だ。水彩絵の具で描かれる彼女の作品は、どことなく大型望遠鏡が映し出す宇宙の姿を思わせる。
「銀河は年齢を経るにつれて、青から赤へと光の色を変化させていきます。さまざまな色と大きさの銀河が無限に広がる宇宙空間の深淵な姿は、科学的興味と同時に芸術的なマインドをも満たしてくれる存在だと思います」と、ジョンはアートと科学の親和性について話す。現在は2Dの平面写真だけではなく、銀河の距離や空間的広がりを表現する3D撮影も可能なので、彼の研究成果のアート性は絵画からさらに、立体造形的なものに広がっている。ジョンは宇宙の美しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと願う。

宇宙の謎に挑む彼の研究には、研ぎ澄まされた緊張感と、極めて高度な集中力が求められる。
「だからこそ、それを背後で支える充実したオフタイムが大切なんです」と力説するジョン。彼は、さらにうまくON/OFFを切り替えられるようになりたいと思っている。

観測や学会発表、カンファレンスなどで世界中を飛び回る機会も多いことから、それぞれの都市の姿に興味を抱いた。その姿を記録しておきたいと一眼レフ・デジタルカメラを購入。多忙な仕事の合間を縫って、都市風景を撮り続けている。東京では、谷中など歴史を感じさせる下町の町並みがお気に入りだという。

一方、東北大学や愛媛大学、大阪大学など、国内にも共同研究を進める大学が多い。空き時間に各地の温泉を訪れるのも、出張の楽しみの一つだ。「日本に来て温泉フリークになった」と語るジョンは、プライベートな家族旅行でも箱根などの温泉を訪れることが多い。大好きな道後温泉に魅せられ、松山を舞台とした『坊ちゃん』を読むきっかけになったほどだ。さらには川端康成や太宰治など、日本文学への関心も高い。

現下のテーマは「初期宇宙で大規模な物質分布から超巨大ブラックホールがどのように成長していったのか」に対する解答を得ることだ。研究の進展とともに、彼の夢は宇宙空間のようにどんどん広がり続けている。

取材・文／太田利之、撮影／今村拓馬