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「最適化」の研究者がたどってきた、実り多きまわり道| UTOKYO VOICES 036

掲載日:2019年2月21日

UTOKYO VOICES 036 - 大学院情報理工学系研究科 創造情報学専攻/数理情報学専攻 教授 武田 朗子

大学院情報理工学系研究科 創造情報学専攻/数理情報学専攻 教授 武田朗子

「最適化」の研究者がたどってきた、実り多きまわり道

勉強はからきしダメだった。小学校低学年のころ、担任の先生から親への通信文に、武田のせいでクラス全体の学習進度が遅れていると書かれたこともあった。しかし母親は「この子は人よりゆっくり成長しているだけ」と気にとめなかった。

「いいじゃないの。ほかの人の倍、勉強すれば」という楽観的な母の言葉に従い、愚直に勉強していたらいつのまにか成績は上がっていた。「どうやら小学生の時は勉強の仕方がわかっていなかったみたいです」と武田は笑う。

一言でいえば“どんくさい”この少女が長じて、計算科学の一分野である「数理最適化」で日本トップクラスの研究者になるのだから人生とはわからない。無数の選択肢の中から、最も目的に適ったものをコンピュータで効率よく見つけ出す方法を考えるのが数理最適化だ。例えば、最適な移動経路を瞬時に提案するルート案内システムは最適化技術が支えている。

数理最適化では現実社会の複雑な諸相を数学の言葉で記述し、不確実な要因や未来予測なども扱う。解がシンプルに求められない課題がほとんどだが、武田はその中でも特に解を求めるのが難しいジャンルの問題に取り組んでいる。

博士課程修了後は民間企業に就職して発電計画など電力分野の最適化に関わり、大学に戻ってからは機械学習分野に守備範囲を広げた。「異分野の人との共同研究が好きなんです。自分の専門の枠内では思いつかないようなことをひらめいたり、自分が知らなかったツールを使えたりするのが楽しくて」

実は、高度に専門化が進む数理最適化の世界で、分野をまたいで研究を進められる専門家はそう多くない。その中にあって異分野連携を好む武田の研究スタイルは、ユニークな成果を生み出す梃子となっている。

とはいえ、機械学習に手を広げたのはちょっとした偶然からだった。「たまたま隣の研究室で手の空いていた人が統計学の研究者で、何か一緒にやろう、と。互いの専門が相乗効果を出せる分野は何かと考えて、機械学習を一から勉強しました」。戦略的な選択というよりもむしろ「行き当たりばったり」に近い。

“どんくさかった子が東大で計算科学の研究者に”という部分だけ取り出せば一発逆転の華々しいストーリーにも見えるが、武田自身は東大の研究者を目指して歩んできたわけではない。「もし研究者として最も効率的なキャリアパスを最適化で求めるなら、私がたどってきた経路はまわり道が多くて、とうてい『最適』とはいえないでしょうね(笑)。私としてはこれまでの道がまわり道だとは思っていませんが」

最適化技術で人の生き方は決められないが、社会にはAI開発や資産配分など、最適化を使うことでより良い解決を見出せる問題が山ほどある。それらを解く土台となる理論を考えるべく、武田は今日も大学ノートにゴリゴリと数式を書き続ける。

写真:(小物)

Memento

頭に浮かんだことや議論したことは端からノートに書きつけていく。「手を動かして書きながら考えたいし、考えたことは紙の上に残しておきたいんです。でないと忘れちゃうから(笑)」

Message

Maxim

「うまくいくかなあ……」という不安を抱えながらでは研究は進まない。何かを思いついたときに「これ、いけるんじゃない?」と感じる楽観主義、行き詰まったときにも「なんとかなる」と感じる大らかさが武田を支えている。

Profile
武田朗子(たけだ・あきこ)

慶應義塾大学で修士号、東京工業大学で博士号を取得後、(株)東芝研究開発センター研究員に。東京工業大学助手、慶應義塾大学専任講師・准教授、東京大学准教授、統計数理研究所教授を経て2018年より現職。2016年からは理化学研究所革新知能統合研究センターチームリーダーを兼任。実社会の問題解決や意思決定を支援する数理最適化モデルを構築し、アルゴリズムの開発やモデルの理論解析を行っている。

取材日: 2018年10月30日
取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

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