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物理学の視点から、先端構造学研究の進化と深化に貢献。| UTOKYO VOICES 037

掲載日:2019年2月22日

UTOKYO VOICES 037 - 大学院医学系研究科 教授 Radostin Danev(ラドスティン・ダネブ)

大学院医学系研究科 教授 Radostin Danev(ラドスティン・ダネブ)

物理学の視点から、先端構造学研究の進化と深化に貢献。

ダネブ家は、両親ともに物性物理学者という研究者一家だった。彼は、早くも物心ついた頃には「自分も研究者になるのだ」と決めていた。幼時期から、コントローラーでレール上の電圧を変えることで変速する鉄道模型に魅せられ、さまざまな「実験」に挑戦。電極をスパークさせて家のブレイカーを落とし、家族を驚かせたこともあったと笑う。

1997年、ブルガリア・ソフィア大学大学院物理学研究科・修士課程修了。指導教官から、「電子顕微鏡研究の国際的権威である永山國昭博士から、研究員募集の国際オフォーがきている」と打診され、キャリアアップを目指して日本行きを即決。翌年から、文部省奨学生として、日本の全大学の共同利用機関である生理学研究所(愛知県岡崎市)で共同研究メンバーに加わった。

「当時日本語はまったくわかりませんでしたが、研究所内のやりとりは、全て英語でしたので特に不安やとまどいはありませんでした」

在任中に、研究室秘書の日本人女性と結婚。その後、海外での研究生活を経験しながらも、日本を終の棲家にしようと決めた。

構造生物学や細胞生物学などの先端研究分野では、試料を液体窒素で低温環境下に置き、電子線を用いてより高精細度な解析を行うクライオ電子顕微鏡が活用されている。しかし、電子線はサンプルを通過するだけでなく、反射や遮蔽されて進行方向が変わってしまうものもあり、画像のコントラストを落としたり、ノイズが発生したりするなど、解析精度を妨げてしまうのである。そこで、電子線の波面の差(位相のズレ)を利用し、明暗をはっきりさせる役割を担うのが、彼の研究テーマである「位相板」だ。

「光学顕微鏡でも活用されてきた位相板の基本セオリーはシンプルです。しかし、実際にクライオ電子顕微鏡への適用を図る際にはさまざまな工夫や配慮が求められます」そう語る彼のグループが開発した「ボルタ位相板」は、位相版にカーボン薄膜を活用することで精度向上に成功した。

例えば、タンパク質の構造やそれに適応した受容体の形態を探り、目指すタンパク質に薬の分子を結合させてその挙動を変化させることができれば、さまざまな疾病を治療することができる。そこで、今や医薬品開発最前線では、高精度な顕微鏡によるタンパク質の解析が不可欠だ。「ボルタ位相板」は、画像イメージのコントラストやノイズ除去のパフォーマンスを格段に向上させ、創薬にも大きく貢献したのである。

高い集中力が求められる研究に打ち込むダネブのイマジネーションは、24時間ホットスタンバイ状態だ。寝入りばなや睡眠中に新しいアイデアが浮かぶことも多いので、常にベッド脇にスマートフォンを置き、アイデアが浮かんだらすぐにメモを打ち込むのである。その一方で、家に帰れば6歳の娘と遊んだり、一緒に公園に出かけたりするのが何より楽しみだ、と子煩悩な一面も垣間見せる。

「娘が将来何を目指すのか……それは彼女次第です。ただし、本人のやる気と可能性の開花を最大限に支援する姿勢は、惜しまないでいたいと思います」と語る眼差しは、どこまでも優しい。

写真:(小物)

Memento

かつての電子顕微鏡は、画像イメージをそのままデジタルデータとしてキャプチャすることができなかったので、自ら銀塩カメラで撮影していた。そのフィルムをチェックするのに、ルーペは手放せない必需品だった。

Message

Maxim

Do what you must do, The result will come sooner or later.
(成すべきことを成せ。結果は、やがてついてくる)
研究には「必ず達成するのだ」という堅い信念と、粘り強く地道な努力の積み重ねが大切だ。「何よりも、努力を継続する姿勢が大切です。その努力は、必ず報われるはずだからです」

Profile
Radostin Danev(ラドスティン・ダネブ)

1997年ブルガリア・ソフィア大学大学院物理学研究科・修士課程修了。1998~2001年総合研究大学院大学(生理学研究所)博士課程。2006年自然科学研究機構 生理学研究所助教となり、2007年には科学技術庁長官賞を受賞。2011年MPIB(Max Planck Institute of Biochemistry・独)分子構造生物学グループリーダー就任。同年米国顕微鏡学会バートンメダル受賞。2017年独電子顕微鏡学会からエルンスト・ルスカ賞を贈られ、2018年春に東京大学大学院医学系研究科(医学部)特任研究員として再来日し、同年秋より教授に就任。

取材日: 2018年11月7日
取材・文/太田利之、撮影/今村拓馬

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