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触媒で生命の可能性を「わがまま」に広げたい。| UTOKYO VOICES 044

掲載日:2019年3月19日

UTOKYO VOICES 044 - 大学院薬学系研究科 教授 金井 求

大学院薬学系研究科 教授 金井 求

触媒で生命の可能性を「わがまま」に広げたい。

人の体内で起きる化学反応を自在に操れる触媒があれば、これまでは治せなかった病気の治療薬が作れるかもしれない。それどころか、触媒によって、人間は自然に備わった能力をはるかに上回る力を発揮できるかもしれない。

そんな“夢の触媒”をつくろうとしている金井は、自分を「わがまま」と評する。自然の姿そのままを甘受するのではなく、といって自然を否定するわけでもなく、自然のシステムに介入しながら科学の力でもっと上を目指すからだ。

「たとえば、地球で進化してきた生物のDNAは二重らせんですが、二重でこれだけ複雑な生命が作られるのだから、もし三重だったらもっとすごい生物になるかもしれない。進化に唯一の正解はないですから、絶対にありえないことではないですよね」――生物学の枠をはるかに超えるこの柔軟さは、どこから来たのだろう。

学生の時には薬学部で生物系の研究室に入りたいと思っていたが、希望とは異なる有機合成化学の研究室に配属され、触媒の研究に明け暮れた。尊敬できる指導教員や先輩に恵まれて多くを学んだものの、博士研究員として渡米するのを機に化学から足を洗おうと思っていた。

とはいえ、まるで不案内な領域では研究室の戦力になれない。金井は自分のスキルをいかせるケミカルバイオロジーの研究室に入った。運命のいたずらというべきか、そこで化学の面白さに目覚めた。

「生命は、分子と化学反応から成る『化学』のシステムなんです。分子や化学反応を操る化学の研究は、生物学的なアプローチとは別角度から思った通りに、「わがまま」に生体に働きかけることができる。また、創薬に応用できるぶん、電子・電気系の技術より直接的に生命に寄り添って、人々の幸せに貢献する可能性をもっているんです」

金井が専門とする触媒化学は伝統的に日本が強い分野だが、応用研究はほとんどが新薬や新素材の開発など「物質」をターゲットとしている。しかし薬学に軸足を置いてきた金井は、「触媒で生体を動かす」という型破りなアイデアを思いつく。

「これは僕が日本で薬学を学んだから生まれてきた考えだと思います。僕が学生だったころの国内の薬学部では創薬研究者の育成を強く意識して、化学を、物質科学と生命科学の双方にまたがる『セントラル・サイエンス』として教育していたからです」

現在、生体内で働く触媒をつくれる研究室は世界でも数えるほどしかない。金井が率いてきた研究プロジェクトでは、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβを壊す触媒や、がん抑制遺伝子を活性化させる触媒をつくり、人類がまだ克服できずにいる病気の治療に新たな道を拓こうとしている。

「いずれは、人間の体では通常起こらない反応も触媒で起こせたらと考えています。原理的には、いまの人間より桁違いに早く走れる人や、AIに負けない計算能力を備えた人だってあり得ないわけではないかもしれない。今はまだこのようなことを言うと、ホラ吹きと笑われるでしょうが(笑)」

病気を治し、人間の能力を伸ばす革新的な触媒の夢。薬学をフィールドとした化学の可能性に、あらかじめ決められた枠はない。

写真:(小物)アンプ(音楽プレーヤー)

Memento

学生時代にアルバイト代を貯めて初めて買ったONKYOのアンプ。ひとりで研究室にいるときは大音量で音楽をかける。昔から好きなのはブリティッシュ・ロックだが、最近は日本の女性ボーカルグループ『Little Glee Monster』もお気に入り。

(直筆コメント)流水の清濁はその源にあり。

Maxim

唐代の名君太宗と重臣が政について論じた『貞観政要』からの一節。「研究室も、僕自身がどういう生きざまをしているかで、どんな学生が育っていくかが決まると思っています」

プロフィール写真

Profile
金井 求(かない・もとむ)

1992年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程を中退して大阪大学産業科学研究所助手に。95年同大学で博士号取得。アメリカ・ウィスコンシン大学博士研究員、東京大学大学院薬学系研究科助教授などを経て2010年より現職。2011年ERATO金井触媒分子生命プロジェクト研究総括、17年新学術領域研究「ハイブリッド触媒」の領域代表などを務め、化学触媒による物質と生命をつなぐ研究を率いている。

取材日: 2018年12月14日
取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

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