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走りながら電気を受け取れる車で、道なき道に轍を刻む。| UTOKYO VOICES 050

掲載日:2019年3月26日

UTOKYO VOICES 050 - 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 准教授 藤本博志

大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 准教授 藤本博志

走りながら電気を受け取れる車で、道なき道に轍を刻む。

目の前を通り過ぎていく電気自動車には、「受電中」の文字が表示されている。なんと、道路に埋め込んだコイルの上を走り抜けるだけで電気を受け取れるという。

「走行中給電システムは他の国でも研究が始まっていますが、この車のようにタイヤの中にモーターが収められた『インホイールモーター』(IWM)と蓄電デバイスに走りながら直接ワイヤレスで電気を受け取れる車は世界初なんです」

従来の電気自動車のモーターは、車のキャビンに積んだ蓄電池から電気をとりだし、シャフトを通じてタイヤを駆動する。藤本が研究しているIWMはそれに比べてエネルギーのロスがはるかに小さく、走行中給電の効率もきわめて高い。

電気自動車は充電に時間がかかるのが泣きどころ。走行中給電はそれを解決する画期的な方法だが、技術的なハードルやインフラ整備との兼ね合いもあり、自動車メーカーが本格的な開発を進めるとしてもまだ少し先の話になる。

「企業ではなく大学だからこそ、課題に対してこれまでになかった解決策を考え、提示することに力を注げる。それが研究の面白さであり、役目でもあると思います」

電気・電子系のエンジニアだった父親の影響で、小学生のころから電子工作やプログラミングに親しんでいた。
「自分の手で作ったものが動くことが純粋に楽しくて。大学でも、デバイス作りとプログラミングの両方ができる“制御”という分野に惹かれ、それ以来ずっと制御の研究を続けています」

対象は自動車だけではない。ロボットや飛行機、工作機械など、モーターで動く機械をコントロールする技術の研究を広く手がけている。

基礎研究から応用研究までの幅も大きい。現時点での「走行中給電+IWM」は、将来の技術の可能性を拓くことを目指す基礎研究だ。しかしこの研究に新たなアイデアをもたらしたのは、藤本が以前から企業とともに続けてきた応用研究だった。

「応用研究は、本当の課題は何かを知るためのアンテナなんです。IWMは技術として優れていてもメーカーではなかなか採用されない。研究の世界だけで閉じているとその理由が見えにくいのですが、メーカーの人と一緒に研究開発をしていると、車載の電池からIWMへ電気を送るワイヤの耐久性への不安が拭えないことがわかってきました」

ここで「ワイヤの耐久性を上げよう」ではなく、「ワイヤ無しで電気を送ろう」と、傍目にはできるかどうかわからない大きなジャンプをするところが藤本らしさだ。

「応用研究で課題の正体が明らかになったら、それをぐっと基礎研究にもってきて『こんなこともできるのではないか?』と新たなアイデアを作る。その行き来も研究の楽しさですね」

その時、提案するだけでなく実現してみせることが重要だと藤本は言う。
「多くの人が研究開発に乗り出せば、実用化が見えてきます。ただ、できるかどうかわからないところに人は来ない。そこに乗り出していって、人が歩ける道を作るのが研究者の仕事だと思うんですよね」

藤本の自動車が轍を作る。きっと、その後をたどる多くの人が社会を変える。

(小物)スキー板

Memento

「機械の動きをソフトウェアで制御するのが私たちの研究ですが、スキーは自分の体で自分の動きや姿勢をコントロールする。そうした身体感覚を鈍らせないために、研究室で毎年スキー合宿に行っています」

(直筆コメント)

Maxim

「研究は、自分の前を歩く人がいないところへ分け入っていくもの。道なきところに道をつけるのが研究者の仕事だと思います」

プロフィール写真

Profile
藤本博志(ふじもと・ひろし)

2001年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、長岡技術科学大学助手、米国Purdue大学客員研究員、横浜国立大学大学院講師、准教授を経て 2010年より現職。電気自動車をはじめ、ロボットや宇宙機・電気飛行機、工作機械、電動車椅子などの運動制御の研究を行っている。2017年、道路からインホイールモーターへのワイヤレス走行中給電に成功。国の走行中給電システム研究開発プロジェクトを率いている。

取材日: 2019年1月17日
取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

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