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1,000回以上通った現場から見えてきた「広義のものづくり」の本質。| UTOKYO VOICES 059

掲載日:2019年4月25日

UTOKYO VOICES 059 - 大学院経済学研究科 教授 / ものづくり経営研究センター センター長  藤本隆宏

大学院経済学研究科 教授 / ものづくり経営研究センター センター長 藤本隆宏

1,000回以上通った現場から見えてきた「広義のものづくり」の本質。

経済学の第二の危機が言われた1974年に東大文二の経済学部に入学した藤本は、2年のときに1年休学して渡米。「かつて米国移民の祖父が住んだシアトルから長距離バスでアメリカ中を放浪し、途中、ボストンのハーバード大学に寄ってスペシャルステューデントとして半年間、経済学以外を勉強しました」と、藤本は話す。

帰国後は企業の内部について学びたいと考え、経済学部で経営学を教えていた土屋守章教授のゼミに入り、組織論、戦略論、アーキテクチャ論(レゴ理論)などを勉強した。その流れで、製造企業の現場である工場の細かい実態調査をしたいと思ったが、学生の身分ではなかなか企業から許可が下りない。そこで、「工場と違って屋外空間にあるため自由に出入りできる農業の現場に行こうと考え、八ヶ岳山麓や千葉県印旛沼近辺の集落や圃場、灌漑施設(農業用水路、分水設備、ポンプ場など)に通って、集落間での農業用水の配分の実態などに関する聞き取り調査や現場観察を行いました」。

八ヶ岳山麓は江戸時代からの広域用水路で、集落間の水争いは激しいが、結果的には200年以上、非公式のルールやルーチンで水がうまく配分されてきた。一方、印旛沼では国の助成でポンプ場と地下埋設水路が完成。水争いは消えたが、共同体によるメンテナンスも行われず、目詰まり等すぐに機能劣化を起こしていた。このように水争いが持つ水配分機能を現場から学ぶこととなった。

藤本は調査を元に卒業論文「灌漑システムに関する組織論的考察」をまとめる。「現場で学んだ、意図せざる結果を伴う創発的な進化過程、つまり、必ずしも事前合理性を前提にしない事後的合理性という進化論的な発想は、私の調査研究者としてのベース」となり、その後の生産現場や産業の創発過程を捉える生産システム進化論、そして進化経済学に繋がった。

三菱総合研究所に就職してからは、自動車産業のプロジェクトを中心に、営業・調査・報告に従事。仕事先の米国で企業の受託調査の取材先で出会ったハーバード大学の教授に勧められ、同校のビジネススクール博士課程を受験し合格。世界中の自動車開発現場でデータ収集し、博士論文をもとに『Product Development Performance(製品開発力)』(キム・クラークと共著)を出版した。

その後東大に戻った藤本は、国内外の生産・開発・サービスなどの現場に行き、話を聞き、観察し、そこから、ものづくり経営学や、産業の進化経済学の理論を組み立てる。「広義のものづくりとは、製品の付加価値の流れを作ることであり、その付加価値は設計情報に宿る。生産とは設計情報の転写(設計情報を媒体すなわち直接材料に移転すること)であり、転写の速度・密度・精度で産業現場の競争力は決まる。この基本論理は、製造業にも非製造業にも通用します」。

「日本企業の隠れた競争力の一つは、近江商人以来の『三方良し』。つまり顧客の満足(買手良し)・企業の利益(売手良し)・地域の雇用安定(世間良しつまり地域良し)の3つを同時に追求する経営思想を持つ優良な中小中堅企業が、地域に根差す現場を重視することです」

人件費が高騰した中国は産業高度化のため米国と同様の技術集約モジュラー(標準部品を組み合わせて作る)国を目指した結果、米中の産業は補完関係から競合関係に変わり、米中技術摩擦となって現れる。潮目が変わった今、米中双方とアーキテクチャが補完的な日本の高度なインテグラル型製品(最適設計された部品を微妙に摺り合わせて作る製品)や部品は両国からの発注が増えてくるので、日本の企業や現場にも勝機はある。

「デジタル化が進展した今、設計思想論や組織能力論に立脚するものづくりの経営学を世界経済の現状に応用すると、こうした予想につながります」

デジタル化時代の今日、現場の能力構築はいよいよ重要となる。「東大のものづくり経営研究センターは、十数年続く産学連携の『ものづくり経営研究コンソーシアム』や自治体十数カ所と連携する『ものづくりインストラクタースクール』を、さらに継続・強化していきます」。

小物

Memento

現場主義の藤本ならではの成果は、論文はもちろん一般書としても発信される。「この分野の研究をやっていて面白いのは、現場の人たちと話をして波長が合った時です」

直筆コメント:	「良い設計良い流れ」

Maxim

「市場に向かう良い設計の良い流れを作り、それによって買い手が喜び、売り手が儲かり、世間すなわち地域が安定する(雇用が守られる)という三方良しを実現していくのが、広義のものづくりの本質と考えています」

プロフィール

Profile
藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)

1979年東京大学経済学部経済学科卒業、同年三菱総合研究所入社、1989年ハーバード大学研究員、1990年東京大学経済学部助教授、1998年東京大学大学院経済学研究科教授、2004年ものづくり経営研究センターセンター長。トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究で知られる。著書に『製品開発力』『生産システムの進化論―トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス』『能力構築競争』『ものづくりからの復活』『ものづくり成長戦略』など多数。

取材日: 2018年12月3日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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