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世界一を目指して実験の限界を突破。幻の素粒子「マヨラナ粒子」の手がかりを物質中で発見。| UTOKYO VOICES 067

掲載日:2019年6月27日

UTOKYO VOICES 067 - 物性研究所 極限コヒーレント科学研究センター長 教授 辛 埴

物性研究所 極限コヒーレント科学研究センター長 教授 辛 埴

世界一を目指して実験の限界を突破。幻の素粒子「マヨラナ粒子」の手がかりを物質中で発見。

粒子と反粒子が同一粒子となる「マヨラナ粒子」は、擾乱に強い新しい量子コンピュータ実現のキーになると期待されている。1937年にエットーレ・マヨラナがその存在を予言し、以来80年も謎に包まれていた幻の粒子・マヨラナ粒子。その存在の手がかりを証明したのが、世界一の高分解能を誇るレーザー光電子分光装置を開発した辛らのチームだ。

「レーザーを光源とする光電子分光によって物理量を測定する分解能が飛躍的に上がり、1meV(ミリ電子ボルト)を切った装置を世界で初めて開発しました。そのおかげで高温超伝導体としてよく知られていた物質の最表面がトポロジカル超伝導であることを発見できたのです。これは、マヨラナ粒子が通常の超伝導体表面にも存在する可能性を意味していたため、2018年春の『サイエンス』と『ネイチャーフィジックス』に連続して掲載されました」

鉄腕アトムと科学、特に物理が好きだった辛は東大理1に進学。「世界で最初のシンクロトロン放射光が物性研(当時の東京大学原子核研究所)で開発され、素粒子科学を専攻していた先輩から『絶対にそれをやったらいい』と言われた」のが、将来、放射光科学とレーザー科学の両者を結びつけた新しい「光科学」を目指すきっかけとなった。

放射光が物性研究に役立つことを明らかにした辛は、レーザーの研究を始める。放射光は大きな加速器が必要であるが、エネルギー可変で強力な光を得ることができる。一方、レーザーはコンパクトにできるうえに、分解能を極端に上げることができる。光電子分光の常識は、分解能は10meVとか100meV止まり。辛は世界で初めてレーザーを光源とした高分解能光電子分光の研究を開始する。

「使えるレーザーが見つかるまでに3~4年かかりました。2005年にやっと、物性研のレーザーの共同研究者とともにそのレーザーを見つけて、世界で初めて分解能が1meVを切るレーザー光電子分光を開発できたんです」。それによって超伝導のメカニズムがわかり、世界中でその真似をするところも出てきた。超伝導の研究が飛躍的に発展したという。

「レーザー光電子によって物質科学を研究する新しい分野を4つ作りました。1つはエネルギー分解で、マヨラナ粒子の研究はその一例です。2つ目はスピン分解で、磁石の研究などを行っています。3つ目は時間分解で、物質中の電子の非平衡な情報を知ることができます。4つめは空間分解で、結晶構造や結晶性、磁性など様々な物質の物理的・化学的性質を空間情報として可視化できます」

時間分解光電子分光を活用すると、ごく短い時間でできる新しい物質を観測することも可能になる。強力なレーザーを用いて非平衡な電子状態を作れば、瞬間的に新しい磁石や超伝導体を作ることもできるという。

「基礎研究で世界一を目指してきましたが、分解能を上げて世界一の測定装置を開発したら、それがいつの間にか産業分野でも利用される可能性も生じてきました。実験の限界を突破することで、いつの間にか世の中の役に立っていたのです。レーザー光電子分光は物質中の電子を知る万能の実験で、今まで地球上になかった物質を作ることもできます。とにかく世界一を目指す。その気持ちがあってこそ、面白いことができると信じています」

(写真):60eVレーザーと時間分解光電子分光装置

Memento

テレビ「ガリレオ」の撮影にも使われた、60eVレーザーと時間分解光電子分光装置。「世界一を目指してきたらいつの間に、真空紫外光や軟X線領域の高調波レーザーを用いた物性研究の将来が見えてきたと思います」。

(直筆コメント):セレンディピティ

Maxim

「セレンディピティというのは突然の発見であり、今まで基礎研究で世界一を目指していたら、予想もしなかった新しいことが立ち上がってくるということ。それが物性研究の面白いところです」

Profile
辛 埴(しん・しぎ)

1977年東京大学理学部物理学科卒業。1980年東京大学理学系研究科物理専攻博士前期課程修了、1983年同博士後期課程退学、同年学術振興会奨励研究員および東北大学科学計測研究所助手、1989年東北大学科学計測研究所助教授、1991年東京大学物性研究所助教授、2001年同教授、1999年~2007年理化学研究所招聘主任研究員、2007年~2014年理化学研究所励起秩序チームリーダー。科学計測振興賞、日本物理学会第9回論文賞、服部報公賞、文部科学大臣表彰科学技術賞などを受賞。

取材日: 2019年1月23日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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