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人型ロボットから夢を得て、分散型ロボットの世界を拓く。| UTOKYO VOICES 080

掲載日:2020年4月2日

UTOKYO VOICES 080 - 大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 准教授 福井 類

大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 准教授 福井 類

人型ロボットから夢を得て、分散型ロボットの世界を拓く。

研究室の書棚に「機動警察パトレイバー」のプラモデルが見える。数あるロボットアニメの中で福井がパトレイバーを好む理由は明快だ。

「戦闘のためのロボットではなく、人のために働くロボットだから」

福井は、「人の役に立つロボットを作りたい」という思いからロボット研究者になった。製品の傷をチェックするといった単純作業や足場の悪いところでの危険な作業……人がロボットに代替してもらいたい仕事、ロボットのほうがうまくこなせるはずの仕事は山ほどある。

とはいえ、いま福井が作ろうとしているのはパトレイバーのような人型ロボットではない。

「“ちゃんと役に立つロボット”を作るには、ほしい機能を一つのロボットに詰め込むのではなく複数のロボットに分散させ、それをうまく統合する『分散・統合型ロボット』のほうがいいはず、と僕は考えているんです」

たとえば鉱山の坑内掘りの現場ではいま、掘削・積込・運搬の3つの仕事を一つの車両で行っている。福井はそれを「掘削・積込」と「運搬」を担う2つのロボットに分け、2つが連動して動くシステムを考案した。それにより生産性が格段に上がることもシミュレーションで確認されている。

「このロボットは建設機械メーカーとの共同研究で、メーカーさんは日本だけでなく世界各国で特許を取得しています。そしてもうひとつ、僕が重視しているのはロボットが性能を十分に発揮できる“環境”です」

自動車は、舗装された道路や信号などの外部環境が整って初めて速く走れる。そうした環境がなければ、自動車自体をいくら高機能化しても速度は上げられない。掃除ロボットも、機能を発揮するには「障害物の少ない床」という環境が必要だ。

ロボットにはロボットに適した環境がある。人間に適した環境にロボットをもってくるだけではいつまでたっても、人よりもちょっと不器用な、人よりも頭の悪いロボットしかできないだろう。

「だから、ロボットが活躍できる“環境”も、僕が考える分散・統合型ロボットシステムの一要素なんです」

たとえば、床を移動して物を運ぶロボットには、人間にぶつからないよう複雑な制御が必要になり、移動速度も運ぶ物の重量も限られるが、福井がいま開発中の天井にぶらさがるロボットは1.0 m/sという高速なスピードで自在に移動でき、60kgもの物を運べる。

ロボットが作業する空間を人間のいる空間と分離することも「環境作り」ですから、と福井は言う。

人はどうしても、環境を選ばず動く、多機能の人型ロボットを求める。しかし、子どものころにそんな人型ロボットから夢を得た福井は、ロボット研究者として対極の方向に歩みだした。

「人間でも一人のスーパーマンがすべての課題を解決、なんてことは現実には起きないですよね? 人それぞれに得意不得意があり、強みをうまく組み合わせ、弱点を補いあって大きな力を発揮する。ロボットだって同じだと思うんです」

ロボットそのものを追求するためのロボットではなく、ちゃんと人の役に立つロボットを。若きロボット研究者はなにより、“人”の幸せを考えている。

小物:プラモデル

Memento

プラモデルとしてはこの2つのような「パトレイバー」に登場するロボットだけでなく「ガンダム」も作るが、「ロボットとしては、空を飛べる戦うガンダムより、地上で働くパトレイバーに共感します」。

Message

Maxim

「機械やAIによって雇用が奪われる、など、技術は人を幸せにするとは限らないという考え方もありますが、これまで人間の生活をより良いものに変えてきたのは技術ですし、技術はそのためにあると僕は信じています」

Profile
福井類(ふくい・るい)

2004年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程を修了後、三菱重工業へ。2006年に退社して同大学院同研究科博士課程に戻り博士号取得。同研究科助教、工学系研究科特任講師を経て2016年より現職。機械工学と情報科学を融合した「分散・統合型ロボットシステム」による新しい研究領域を開拓している。代表的な研究に、建設・鉱山機械システムや自動隊列走行システム、ウエアラブルな入力デバイスなど。産学共同研究にも積極的に取り組んでいる。

取材日: 2019年11月5日
取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

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