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「超短時間労働」で障害者雇用を多様化する 1日15分からでも企業で働けるモデルの研究、社会実装

掲載日:2018年7月20日

© [elenabsl] / Adobe Stock

インクルージョン(包括)やダイバーシティ(多様性)が社会において重要な概念であることは様々な場面で話題に上るようになりました。それにも関わらず、障害を持った若者の多くは、学校教育の終了が近づき仕事を探し始めると、選択肢が一気に狭まることに気づきます。

日本では、多くの企業が大学を卒業したばかりの若者を新卒採用し、採用された人たちも、終身とまではいかなくとも長年一つの企業に勤務することが一般的です。しかし、このような働き方は、週40時間きっちり働くという硬直的な就業形式にそぐわない障害者の人たちの多くを雇用市場から締め出すことにつながってきました。

先端科学技術研究センター(先端研)の近藤武夫准教授は、このような状況を打開すべく、「超短時間労働」という、最短で1日15分の労働でも報酬を得られるような就業モデルを提案しています。

「本来、雇用というのは労働時間の長さとは関係ないはずです」と近藤先生は話します。「けれども日本では、週40時間、年間12か月働くキャリアモデルが中心となってきました。これは、健康な成人の男子を暗黙のうちに想定したもので、それ以外を排除する結果となりがちな雇用モデルです」。

2017年夏に障害を持つ中高生のために開かれたDO-IT Japanのワークショップに参加する生徒。東京大学の先端科学技術研究センターによって運営されている。© 2018 DO-IT Japan.

心理学を研究していた近藤先生(42)は、2005年に先端研に教員として着任して以降、DO-IT Japanという、小学生から大学院生までの、将来リーダーとして活躍することが期待される障害を持つ生徒たちが、コンピュータ技術や自己アドボカシーのスキルを身につけ中等、高等教育や雇用へ移行するプログラムの運営に携わってきました。

DO-ITは英語で Diversity(多様性) Opportunities(機会) Internetworking(相互ネットワーキング) Technology(技術)の略で、もともとはアメリカで始まったプログラムです。日本では2007年に、先端研の中邑賢龍教授の主導で始まり、これまでに注意欠陥・多動性障害、学習障害、自閉症や、聴覚、視覚、身体障害など、障害の種別によらず多様な障害のある生徒・学生が参加してきました。

近藤先生は、DO-ITに参加した学生が学業面で成功するのを喜ばしく感じると同時に、就労の段階に来ると彼らが大きな障壁に直面することを知りました。

「私たちは今まで、日本で初めて発達障害による書字の障害があるために、ワープロを使って大学入試を受けた生徒や、学習障害(読字障害)のある生徒で初めて、センター試験を音声(代読)で受験した生徒など、日本初の事例を輩出してきました」と語ります。「しかし、就職という段階に至ると大学受験とはまた違った大きな壁にぶつかります」。日本型の雇用モデルは、例えば、移動に困難があって食事やトイレ利用に介助が必要だったり、非常に優秀だけれども週に10時間までしか働けない、といった人たちには対応することが難しい、と近藤先生は言います。

雇用率算定の条件

1960年に制定された障害者雇用促進法は幾度もの改正を経て、現在、45.5人以上の従業員(短時間労働者は0.5人分と算定)がいる一般事業主は、障害を持つ従業員が全従業員の2.2パーセント以上を占めるよう義務付けられています。雇用率を満たした企業には助成があり、満たさない企業には納付金が課せられます。

しかし、このスキームも、障害者が最低週に30時間働くことが前提になっています。20時間以上30時間未満働く場合は雇用率に0.5人として算定され、それより短い時間働く人は全く算定されません。

短時間労働が認められないため、長い時間働くことが難しい障害者は、国の援助付き雇用である福祉作業所や地域活動支援センターなど、通常の企業での雇用とは異なる場所に所属することしか選択肢がありませんでした。ちなみに作業所での賃金は、現在全国加重平均で850円となっている最低賃金を大きく下回ることが一般的です。

このような状況を打破するため、近藤先生は、中邑先生と共に、2016年に障害者の超短時間雇用プロジェクトを始めました。Inclusive (インクルーシブ)and Diverse (多様な)Employment (雇用)with Accommodation(配慮)の略でIDEAモデル研究と呼ばれ、これまで、ソフトバンク株式会社と連携して本社で非常に短い時間から障害者を雇用できる社内制度を構築したり、川崎市、神戸市と連携して、自治体とその自治体にある多くの企業で、超短時間からの雇用ができる地域システムを構築したりしてきました。

2016年3月時点でIDEAモデルを通じて46人の人が週で合計347時間の労働を提供しています。

ソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)では都内オフィスの40以上の部署で24人のショートタイムスタッフを雇用し、週165時間分の雇用を実現しています。(2018年6月末時点)。川崎市や神戸市では、市役所内の様々な部署と連携して、働きたい人を見つけ出し、支援してきました。どちらの自治体も独自に障害者への就労移行支援事業を行っていたのですが、20時間以上働けない人は対象となりにくい状況がありました。

現在、IDEAを通じて雇用されている人で一番勤務時間が短いケースは週1時間です。時間が短くても最低賃金かそれ以上のレベルの報酬が支払われます。

明確な職務の定義

近藤先生は、プログラムの成功の鍵は、協力企業の従業員の仕事のうち、その従業員の本務ではない周辺業務を特定し、IDEA経由の労働者と従業員が協働できる仕組みを作ることだと話します。もう一つ重要なことは、超短時間雇用で働く人のタスクをできるだけ明確に定義することで、労使両方の混乱を避け生産性を上げることだといいます。

「企業には、『障害者のための仕事、障害者ができる仕事を切り出そう』いう発想をしないでくださいと話しています。代わりに『あなたの部署で一番仕事が集中して困っている人は誰ですか?』と聞きます。この仕事を誰かが担ってくれると職場が助かる、というところから発想するのです」。 企業の従業員のみならず、彼らの上司にもコンサルティングをすることで、従業員の本務であるタスクとそうでないものを分けることができるといいます。

東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授

「日本の雇用では職務定義書を交わす慣習がありません」と近藤先生は言います。「我々は、過度にジェネラリストあることを労働者に求めず、障害のある人が得意な部分を生かして働きけるように工夫します。また超短時間で働く場合、フルタイムの労働者に求められがちな、職場の空気や文脈を読んで臨機応変に求められることを何でもやる、という働き方は困難です。そのためまず職場の人々に『一つ一つの職務の要件を詳しく定義すること』に慣れてもらう必要があります。そこで定義された仕事に向いている労働者を探してくる必要もある。IDEAで構築している地域システムはそれを企業や部署だけに押しつけず、地域で支えることで負担なく行えるようにする仕組みです」。

IDEAモデルで行う職務は多岐に渡ります。これまでに参加した企業のニーズから、たまたま在庫のチェックや、文書の電子化、スキャンした名刺の文字データ修正などのオフィスワークが多いのですが、接客や清掃、リハビリ助手、翻訳、デザインなどもあり、論理的にはどのような仕事でも生まれます。企業にとっては、このプロジェクトに参画しても障害者雇用率向上にはつながりませんが、短時間勤務スタッフ、企業の両方からの評判はよいようです。

ソフトバンクの技術部門で働く30代の男性は、ショートタイムワーク制度について同社が紹介したウェブサイトの中のビデオインタビューで制度について満足していると話しています。この男性は統合失調症で、過去、別の職場で週20時間働こうとして体調を崩した経験がありましたが、現在は制度を利用して、週に20時間未満の勤務で、プログラミングや物品整理などの仕事をしています。

「今まで働いていたところでは、病気について隠して働いていました。この制度を利用して働くようになってからは、病気を隠す必要がないことがとても楽です。また、特性にあわせた業務を任せてくれるため、とてもリラックスして仕事ができています」と男性は話しています。

このショートタイムワーク制度を担当するソフトバンクCSR部門の横溝知美さんは、「業務の整理を行い、ショートタイムワーク制度を活用して、スタッフの方に一部業務をお任せすることで、社員がクリエイティブな業務に集中することが可能になりました」と話します。

労働需要とマッチした仕事

「企業や障害者支援関係者からは、終身雇用できるように、超短時間雇用の仕組みを社内につくるべきではないだろうか、と質問される場合もあります」と近藤先生は話します。「しかし、私はそれを第一義にはしないでくれ、と言っています。仕事はその企業内の労働の需要とマッチすべきで、その企業で仕事がなくなったら職もなくなるべきです。配置転換や職務転換をして雇用を継続させることを第一義にしてしまうと、いつの間にか労働者はジェネラリストであることを求められ、その結果、できることとできないことに大きな偏りのある人がまた排除されてしまいます。すると障害者の雇用は、いつまでたっても『特別なこと』という位置づけから抜け出せない。そういうこともあって(企業間の労働者の流動を支援したり、セーフティーネット措置を持っている)自治体を巻き込んでいます」。

2017年夏に開かれたDO-IT Japanのワークショップに参加する生徒。近藤先生は、障害を持つ子供たちが就職という壁によって絶望しない社会を作りたいと話す。© 2018 DO-IT Japan.

近藤先生は障害を持つ若者の中には、人生に希望を持つことが難しいと感じている人も多いと言います。

「将来に夢が持てない、と語る子どもに出会うことは少なくありません。ジェネラリストであることが前提となっていて、強みだけを生かした働き方は難しいと誰もが信じ込んでいたり、週40時間以上、年間12ヶ月連続して安定的に働くことはごく当たり前、としか考えていない社会通念から、そんな絶望が生まれてしまうのかもしれません。社会がそのように固定化された能力観だけに凝り固まっていては、新しい社会参加を生み出すクリエイティビティやイノベーションは生じないでしょう。なのでそこを変えたい。その前提を変えれば、障害のある子供たちも『自分だったら将来こんな働き方ができるかも、だったらこんなことを学びたい』と未来をイメージできます。教育や雇用、ひいては社会のあり方にいちいち絶望しなくてよくなるはずです」。

取材・文: 小竹朝子

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