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災害対策を自分ごとにするために必要なこととは? 東大の専門家が「サイエンスアゴラ2020」ウェビナーで議論

掲載日:2020年12月23日

2011年の東日本大震災後の岩手県釜石市の津波被害現場。防潮堤によって津波エネルギーは低減されたが、海岸近くの家屋の被害は免れなかった 写真提供:沼田宗純先生

災害大国日本において、事前対策や備えの重要性を疑う人はいないにも関わらず、実際に行動をしない人が多いのはなぜでしょうか。他人事だと考えがちな災害を自分ごとにするためには、何が必要なのでしょうか?

2020年11月15日、科学コミュニケーションイベント「サイエンスアゴラ2020」内のウェビナーに出展した東京大学の研究者らはそれぞれ、地震、水害、感染症という異なる災害について取り上げ、議論を交わしました。90分のウェビナーには約30名が参加し、セッションはYouTubeでも動画配信されました。

モデレーターを務めた生産技術研究所の沼田宗純准教授はまず、災害には大きく分けて、地震や津波など、短時間で予測や準備が難しい「突発型災害」と、台風や大雪、洪水など、比較的事前に被害の規模が想定される「進行型災害」の2種類があると説明。ハザード(自然の脅威)と、それを受ける社会システムや地域の特性によって災害の結果は変わる、と話しました。

地震研究所の三宅弘恵准教授は、災害を自分自身の問題にするために必要なステップとして、「知る」「測る」「備える」の三つを挙げました。建物の倒壊や津波、地面に現れる断層のずれ、遠くの地震によって都心のビルが揺さぶられる長周期地震動など、さまざまな被害の実態について「知る」ことの重要性を指摘。宇宙衛星やスマートフォン内蔵のセンサーによる地震計など、さまざまな手法で地震を「測る」取り組みや、集めたデータを使ってコンピュータで将来の地震被害をシミュレーションし、人口密度を考慮しながらリスクマップを作って「備える」試みについて紹介しました。

一方、洪水予測について研究を進めているのは生産技術研究所の芳村圭教授。洪水は、世界で平均年経済損失が10兆円以上に上る、地震と並んで甚大な被害を引き起こす自然災害です。過去には気象庁の予測で発生の2時間前まで河川の氾濫警告が出せなかった事例もあり、避難までのリードタイムをいかに長くできるかが課題になっています。芳村先生がJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で研究を進めるToday's Earthというシステムでは、土壌中の水分量や河川流量などのほぼリアルタイムのシミュレーションにより、約30時間前の予測が可能になりつつありますが、現在は、気象庁が「シングルボイス」と呼ばれる、国による予報しか認めない仕組みを採用しているため、民間が独自に洪水予報をすることは認められていません。

ただ近年、大雨による河川の堤防の決壊や氾濫が相次いでいることから、国が研究機関や民間事業者による洪水予報を認める検討を始めたとの報道もあり、近い将来に「マルチボイス」による洪水予報が解禁されるかもしれません。 

Today's Earthサイトのトップページ画面。ほぼリアルタイムで世界中の河川の流量や氾濫域の推定結果をモニタリングすることができる

芳村先生は、シングルボイスとマルチボイスのシステムにはそれぞれ長所と短所があるものの、マルチボイスはDIY(Do It Yourself =自分でやってみる)災害対策の一つになりえると述べ、「予報情報も自分で取捨選択する社会になりつつあるということを皆さんに考えてもらいたい」と話しました。

現在も感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症ではどうでしょうか?新型コロナ対策専門家会議を始め、国や東京都の対策に関わってきた医科学研究所の武藤香織教授は、今年10月中旬に行われた東京都民への予備調査(Web調査、有効回収票数935)の結果を紹介。「東京都の感染状況についての情報を得る」「なるべく混まない時間や場所を選んで行動する」「3密(密閉、密集、密接)が重なる場を避ける」の項目で「夏のほうが気を付けていた」と答えた人がそれぞれ25.7パーセント、14.1パーセント、18.2パーセントに上ったことに触れ、市民の間にコロナ疲れや対策への飽きが生じていると指摘しました。

沼田先生は、人々には「テーブル上」の議論の論理と、「テーブル下」の感情が混在していると解説します。早目の避難や家具の固定、コロナ予防対策の継続が大事だとは分かっていても、地域の歴史や文化から形成される価値観や「まあ大丈夫だろう」という正常性バイアス、「他の誰もやってないし」という同調性バイアスなどに影響され、なかなか行動が起こせないといいます。また、「地震で死んでも構わない」という諦めの境地の人もいるといいます。

そもそも、人はなぜ行動するのか。そこには「誰かを助けたい」「社会の役に立ちたい」という利他的な動機と、「人に認められたい」「お金を儲けたい、遊びたい」という利己的な動機があります。

災害対策ミーティングで起こりがちなテーブルの上の議論とテーブルの下の本音の図(沼田先生の発表画面より)

沼田先生は、東日本大震災の際、避難になかなか応じない住民の説得にあたっていた消防団員が津波に巻き込まれ死亡した例を挙げ、「例えば、避難保険という制度はどうか。避難したらお金がもらえるというシンプル、利己的な考え方に基づくものですが、人間のシンプルな願望に突き刺さるような社会制度や仕組みを作るというのも考え方としてはありかなと思います」と話しました。

コロナ感染予防でも、利他的な動機に働きかけるメッセージは届きづらいと感じた、と武藤先生も振り返ります。

「2020年3月ごろ、若い世代に向けて、家族や大切な人を守るために予防対策に協力してください、というメッセージを出したら、『専門家会議は(新型コロナウイルスの流行を)若者のせいにするな』といったツイッターでの書き込みが相次ぎ、『誰かを守りたいとか全然思ってない』とさえ言われました。若い人は、自分は重症化しない、無症状、罹らない、という確信があるのではないか。そのあたり、災害は自分には関係ないし、たまにしか起きないという話と通じるところがあると思います」

私たちはどうすれば自分たちの命を守るための行動を取れるようになるのでしょうか。簡単な解決策はありませんが、災害の種類の違いを超えて、事前の対策作りで共通化できることは多そうです。例えば現在、地域レベルで行われている防災訓練や防災リーダーの育成を感染症対策にも広げ、正しい感染対策を住民に広めるようなリーダーを育成する取り組みを始めるべき、と武藤先生は話します。

ウェビナーの参加者からは、災害時に避難するタイミングを世帯主が決める際の条件についてなどの質問が寄せられました。芳村先生は、地形条件、生活条件、避難手段や避難する時間帯など、さまざまな条件が考えられるが、ハザードマップなどの静的な情報に常日頃から接しておき、災害時のリアルタイムの情報と組み合わせて判断することが必要だろう、と話しました。

沼田先生は、「コロナをきっかけに危機管理や災害対策のあり方が抜本的に変わるタイミングなので、個人でどこまで対策ができるのか、とか、技術が進歩したときに我々はどのようにそれを学んで生かすべきか、ということを引き続き議論していきたい」と述べ、セッションを締めくくりました。

文/小竹朝子

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