科学技術と社会の間の課題を炙り出す推理ゲーム『nocobon』とは?
人工知能学会倫理委員や日本ディープラーニング協会理事、内閣府や総務省や文科省のAI関連委員を歴任してきた江間有沙先生。
実は日本ボードゲーム協会が主催するコンテストの審査員も務め、これまでにいくつものボードゲームを世に出してきた開発者でもあります。
科学技術と社会の間にある課題を可視化する自身の研究とゲームの深い関係を紹介します。
週末にPM2.5を吸いに行く?
東京カレッジ准教授
EMA Arisa
私の専門は科学技術社会論です。科学技術と社会の間で起きる課題の可視化、最先端技術と共存する方法論の開発、そのための対話の場の設計に取り組んでいます。多様な分野の人から互いの当たり前を引き出して議論しやすい状況にする仕掛けとして有効なツールが、ゲームだと思います。
以前から小学生向けイベントで双六を作ったりしていましたが、京大時代に科学コミュニケーションのワークショップに参加し、生物多様性やiPSといった科学技術と社会に関する課題に対してゲームを通して考えるツールを開発する人たちと出会い刺激を受けました。そのような人たちで集まって、縦割り組織内で協力して問題を解決しながら事業の成功を目指すボードゲーム『TATEWARI』を作ったのが、自分のゲーム開発の端緒でした。
『nocobon』は、駒場の教養教育高度化機構着任後に同僚と開発したコミュニケーション型推理ゲームです。カードに記された短いストーリーの謎を、YesかNoで答えられる質問を繰り返して解明します。たとえば、あるカードには「太郎は週末にPM2.5を吸いに行くという。にもかかわらず、彼はとても嬉しそうだった。なぜ?」という質問が書かれています。回答者は「公害は関係ありますか?」「タバコですか?」などと質問し、それに主題者が一つずつ答えていく。本来、PM2.5は「2.5μm以下の粒子性物質」の意ですが、大気汚染が進んで健康被害をもたらす空気中の粒子をPM2.5と呼ぶ報道が溢れ、PM2.5=悪と思い込む人が増えました。
科学技術と社会の関係を考えさせるこうした質問を33枚のカードにまとめて公開し、ダウンロードして自由に遊べるようにしたのが『nocobon』です。ゲームに込めたのは、垂直思考と水平思考を組み合わせ、ロジックに縛られずに思考を飛ばしてみようというメッセージ。バカらしく思えるような質問もときに大きなヒントになります。

』(Cosaic、2015年)のセット。壁にあいたスリットから別部署の人と情報を共有し、大事業を成立させる“超・立体的"協力ボードゲーム。

をご覧あれ。AIの倫理とガバナンスをゲームで体得
現在トヨタ自動車未来創生センター
の研究者と共同で開発しているのは、『AIガバナンスゲーム』です。企業のAI戦略チームの一員となり、業務と顧客サービスの向上を目指すなかで、AIの倫理やガバナンスの理解を深めます。盤上にAIの開発・運用に関する領域がいくつかあり、各チームは与えられた方針に基づいて人材や予算などのリソースを配置。ゲーム中には様々な出来事が起こります。たとえば「AIの誤用で機密情報が漏洩」という事態では、リスク重視の配置を選んだチームが高得点を獲得し、成長重視の配置を敷いていたチームは大きく失点。最後に点数が多いチームが勝利です。
テストプレイ後の振り返りで、なぜあの場面でこの行動を選んだのか、どう感じたのか、といったデータが得られます。ゲームで出てきた声、知見、価値観などを抽出して研究にフィードバックする。ゲームは社会にある未知の論点を拾い上げるためにも有効です。AIと聞いて自動運転を思い浮かべる人もChatGPTを思い浮かべる人もいます。立場の違う人が議論をうまく進めるには、共通理解を促す工夫が必要。100ページの文書を読むのは苦痛でも、ゲームを通して議論の前提となる共通認識を得ることは苦痛ではないでしょう。ゲームは異なるステークホルダー間の議論を促す役割をも備えています。

- 江間先生の推しゲー
- 『Keep Cool
』(Spieltrieb)
「地球温暖化が進む中、各国が自国の利益を追う交渉系ボードゲーム。緊張感を持ちつつ協調しながら競争するのが面白い!」


