UTokyo研究室発グッズ集
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第4回
今年4月、東京大学コミュニケーションセンター(UTCC)から発売された「焼きあご白だし」と「焼きあごだしパック」。これまでだしの原料としては敬遠されてきたトビウオ(あご)の成魚を使った商品です。うま味を引き出すカギは酵素でした。企業と共同で製造技術を開発した農学生命科学研究科の大西康夫先生に話を聞きました。
酵素を使うことで誕生した焼きあごだし
大西康夫
OHNISHI Yasuo
農学生命科学研究科 教授

(右)焼きあご だしパック 1,400円
※価格は全て税込
麹菌由来の酵素「プロテアーゼ」で成魚を美味しく
高級だしとして知られる焼きあごだし。上品な味わいで透明感があるだしの原料には、脂肪を蓄える前のトビウオの未成魚が使われてきました。しかし、未成魚の漁獲量は自然条件などに左右され計画的供給が難しいなどの課題もあります。成魚をだしに使うことはできないか。酵素を使ってそこに挑戦したのが、醗酵学研究室
を率いる大西先生と(株)ヒカリッチフードサイエンスの髙橋夕佳代表取締役です。
「トビウオは成長すると脂がのるため、だしを取ると濁り、味も落ちてしまいます。何とかして成魚からも美味しいだしが取れないかと髙橋さんから相談を受けたのが始まりです」と大西先生。日本を代表するだし文化を育てたいという高橋さんの思いも聞き、共同研究に乗り出したと話します。
トビウオを焼く前の生の状態に何かできないかと考え、目を付けたのが酵素です。肉を柔らかくするなど、食品加工にはよく使用されていますが、生の魚を酵素処理する例はほとんどなかったため、複数の酵素を試しました。その中で美味しくできたのが「プロテアーゼ」というタンパク質を分解する麹菌由来の酵素でした。プロテアーゼは市販の洗濯用洗剤などにも使われているので、聞いたことがあるかもしれません。
「プロテアーゼには色んな種類があって、基質特異性(どのようなタンパク質を分解しやすいか)や触媒メカニズムなどがそれぞれ違います。それらを何種類か組み合わせたり、濃度を変えたり、スプレーで吹きかけたり、溶液の中に浸したり……と、いろいろな条件を変え、焼いて、乾燥して、だしをとって試飲するという工程を繰り返しました」
魚の身が崩れない程度の濃度のプロテアーゼで処理したものが一番良かったと振り返ります。2023年3月に開発した製造技術を特許出願。2025年2月に登録されました。



酵素処理でアミノ酸量が増加
だし汁のアミノ酸組成を分析したところ、プロテアーゼ処理をしたものは、していないものに比べて、アルギニンやリジン、フェニルアラニンといった遊離アミノ酸量が総じて増加していました。うまみの主要成分のグルタミン酸も4mg/100gから6mg/100gに増加。人間の五感を使って品質を判定する官能検査でも高い評価を得ることができましたが、これには遊離アミノ酸量の増加以外の要因もあると思われます。
大西先生の専門は「放線菌」。抗生物質などの薬になる化合物を生産する微生物です。その化合物生産の仕組みや、放線菌の形態分化の制御を主に研究してきました。今回のあごだしは、先生にとって王道の研究ではありませんが、広い意味での微生物研究を応用できた一例だと考えています。「だし文化を広めたいという思いがある企業とコラボし、それが商品につながったことが嬉しいです」
産業界で困っている人が相談に来たら一緒にやりましょう、というのが100年以上の歴史がある醗酵学研究室の代々の方針だと話す大西先生。例えば「酒の博士」として知られる坂口謹一郎名誉教授(1967年文化勲章)は、寿屋(現サントリーホールディングス)の国産ワイン製造を支援したことが知られています。日本でいち早く組換えDNA技術を取り入れた別府輝彦名誉教授(2022年文化勲章)の元には日本各地から多くの企業研究員が集いました。「研究の動機・方向性に納得がいくならば、今後も企業の方と一緒にさまざまな研究に挑戦したいと考えています」

