柏の公道と万博のEVバスでワイヤレス給電の実証実験を展開
現在の電気自動車(EV)に必要な大容量電池の製造では、無視できない量のCO2が排出されてしまいます。
藤本博志先生が取り組むのは、小容量電池を積むEVに道路に敷設したコイルからワイヤレスで給電するDWPT※という手法。
大阪・関西万博でも実施した実証実験の中身を紹介します。
※Dynamic Wireless Power Transfer
道路にコイルを埋めて給電
FUJIMOTO Hiroshi
新領域創成科学研究科教授
2023年10月、電気自動車の走行中ワイヤレス給電(DWPT)の実証実験を柏の葉キャンパス駅近くの公道で開始しました。使用車両はトヨタのハイエースとRAV4 PHEV。前者は駅とキャンパスをつなぐシャトルバスへの適用、後者はプラグインハイブリッド車への適用を視野に入れたものでした。車両への給電動作の確認はもちろん、送電コイルの埋設工事の確認、他の車両や歩行者、近隣住民に受け入れられるかの社会受容性の確認、コイルやDWPTシステムが長期間劣化しないことの確認などの検証を2年以上行い、良好な結果を得ました。一般車両が走行する公道での実証実験はこれが日本初でした。
2019年に神奈川県の実車走行データを調べたところ、走行車は1時間のうち15分を交差点の手前30m内ですごしていました。交差点付近では速度が落ちます。コイルの上にいる時間が増えれば給電量も増えます。他地域のビッグデータの検討も加え、交差点の手前30mに設置するのが良いとの結論を得ました。公道実証実験でも交差点の手前に設置しています。
カーボンニュートラルには自動車のEV化が重要です。ただし、航続距離の短さを近年は大容量電池で補っていますが、電池製造時にはCO2が出るので、大容量電池のEVの普及はCO2排出削減効果を弱めてしまいます。そこで小容量電池でも航続距離を延伸できるDWPTに注目しています。試算では4kWhの電池でも航続距離は問題なし。2倍の8kWhとしても、現行の110kWh大容量電池搭載のEVと比べ、電池製造時のCO2排出量を1/10以下にできます。コイルの製造や敷設、受電装置の製造でもCO2は出ますが、さまざまな試算の結果、DWPTのほうが排出量を低減できるとわかりました。
公道実験には多くのステップがあります。交通の安全面では給電装置の耐久試験が必要でした。11トン車で20万回(40万輪)踏んで問題ないことを示し、道路の使用許可が出ました。地域の理解も不可欠です。磁界や電界強度によるノイズが近くの精密機器に干渉する恐れがあり、送電装置と受電装置のコイルを各々2つにして電流の向きを相殺してノイズを低減。余裕をもって電波法をクリアし、説明会では前向きな声を多くいただきました。


万博会場のEVバス6台で実証
柏での試みを経て、2025年4月~10月に同様の実証実験を大阪・関西万博会場で実施しました。外周路の約50mの部分とバス停周辺にコンクリートと一体化した給電コイルを埋め込み、EVバス6台を運行するというもの。
通常のコンクリートは鉄筋で補強しますが、電磁誘導を利用するこのシステムでは干渉の恐れが残るため、HPFRCCという樹脂繊維を用いています。万博会場では、その材料となるセメントの一部を高炉スラグ微粉末などの産業副産物に置き換える技術を採用し、材料製造時のCO2排出量を50%削減。184日間の実証実験は無事終了しました。関西電力、大阪メトロ、ダイヘンなど関西を代表する企業を中心に進む取り組みの一環です。
一連の実証実験を踏まえ、DWPTの技術をさらに磨きます。2027年度にNEXCO東日本の高速道路、2028年度には大阪シティバスの路線バスを使った実証試験を行う予定です。
SHIMIZU Osamu
新領域創成科学研究科 准教授
「公道実験には法的な問題も山積みです。当初はこんな装置を道路に埋められるわけがないと言われましたが、道路付帯設備でなく一般工作物として申請することで道が開けました。万博の実験は柏の経験のおかげでほぼ順調に進みました。重厚だったプレキャストコイルを軽量化できたのもプロジェクトの連続性の賜物です」



