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三陸のサケにまつわるストーリーを発掘 ウナギ博士、大槌でサケ研究に奔走

掲載日:2019年5月21日

岩手県大槌町で塩漬けされ日干し乾燥される鮭。新巻鮭と呼ばれる昔ながらの保存食だが、脂身の少ない三陸の鮭の特色に合った加工法だという。写真提供:峰岸有紀助教

日本の朝食では定番の鮭。その産地として北海道はあまりにも有名ですが、岩手県も2019年2月までの直近のシーズンの沿岸漁獲量が9,000トン近くを記録するなど全国2位の産地で、本州では一番の規模を誇ります。にもかかわらず、東北地方のサケについては知られていないことがまだまだたくさんあります。

岩手県大槌町の大気海洋研究所・国際沿岸海洋研究センターの青山潤教授は、サケの生態のみならず、民俗学的な位置づけも含めた東北のサケの総合的な研究をセンターの他の研究者とともに進めています。

実は2014年のセンター赴任まではウナギの研究に邁進していた青山先生。研究のため希少ウナギの標本を求めてアフリカの僻地まで貧乏バックパッカーに扮して旅した体験をまとめたエッセイ本で賞を取るなど、サケと同じく回遊魚であるウナギの生態の専門家として世界中を飛び回っていました。そんな青山先生がサケに興味を持ったのは、センター赴任後、通勤中にふと立ち寄った地元の川で、サケが目の前で産卵しているのを見たことがきっかけでした。

「こちらに来て最初の冬、通勤途中に車を降りて川を遡るサケを見ていたら、目の前で産卵し始めたんです。はるかベーリング海から戻ってきて、ここで産卵してくれるなんて、愛いやつだな、と思いました」。

北海道とは異なる東北のサケ

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大気海洋研究所・国際沿岸海洋研究センターの青山潤教授。

横浜育ちで北日本とは縁遠かった青山先生がそれまで持っていたサケのイメージは、ヒグマが咥えている木彫りや石狩鍋など、アイヌ文化や北海道を想起させるものがほとんどで、東北のサケと聞いてもあまりピンと来なかったそうです。

「門外漢なりに調べてみると、我が国のサケに関する民俗学的な情報の多くはアイヌ研究に行き着き、いわゆる大和言葉を話していた人々とサケとの関係にはまだまだ研究の余地があると感じました」。

センターを拠点に東北のサケの民俗学研究を担うのは、国立民族学博物館出身の吉村健司特任研究員。2017年に赴任して以降、サケと人の関わりについて調べてきました。その結果、三陸におけるサケは経済的な重要性に留まらず、儀礼や贈与に基づく社会的紐帯の構築への寄与など、文化的、社会的需要が極めて高いことを明らかにしつつあります。

一方、青山先生は北海道とは違う東北のサケの生態にも注目しています。日本では、人工ふ化放流事業の発展により70年代にサケの漁獲量が急増しました。しかし、その技術開発は圧倒的な漁獲量を誇る北海道の研究に基づいていて、東北のサケについては知られていないことも多いと言います。

「北海道では、大きな川が長い海外線に流れ込んでいて、冬季は水が非常に冷たい。それに対して岩手県はリアス式海岸で、小さな湾があり、非常に小さくて急峻な川がたくさん流れ込んでいる。湧水が湧いている関係もあって川の水温もそれほど下がらない。海も違えば川の環境も全然違うんです。そこへ帰ってきて卵を産んでいるサケが同じことをやっているわけがない。北海道と三陸のサケが色々な意味で異なる事は明らかです。ふ化放流事業では、上ってくるサケを捕まえ、卵を取って人工的に受精させ、稚魚を作って放流するというサイクルがずっと続いているわけですが、これまでと違う三陸独自のやり方が見えてくるんじゃないかと」。

実際、岩手県沿岸の川は短いため、サケが河口にたどり着いた時点で産卵を控えてすでに成熟しており、脂が抜けているのに対し、北海道の鮭は河口から産卵場までの距離が長いため、河口で獲れたサケには脂が残っているといいます。岩手各地で江戸時代から作られてきた「新巻鮭」は、塩漬けし日干し乾燥することで旨みが凝縮し、綺麗な飴色に仕上がりますが、脂が少ない鮭に合った加工法だと青山先生は話します。

センターの研究者たちは、自然産卵したサケや人工ふ化放流事業に由来する体重0.5-1.5グラムほどの小さな稚魚が、川を降り、4年間ほどかけてオホーツク海、ベーリング海、北太平洋を回遊して、再び三陸の河川に戻って来る様子を、バイオロギングなど様々な手法を用いて調査しています。

サケ漁業は岩手の一大産業であり、東日本大震災で壊滅的被害を受けたあと復興を目指す東北の水産業にも研究が役立つことが期待されています。

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国際沿岸海洋研究センターの研究室に積み上がった東北の鮭に関する文献。

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岩手県の川に戻ってきた成長魚。写真提供:川上達也特任研究員

国際沿岸海洋研究センター研究棟ロビーの天井に描かれた大小島真木氏制作の「Archipelago of Life 生命のアーキペラゴ」にも鮭が登場する。

サーモンスイムに見る新しいサケの活用法

また最近、大槌の南に位置する大船渡市でサーモンスイムという、産卵のため川を遡上するサケをダイビングスーツを着て川の中から見るという観光イベントが行われ、人気を博しています。民俗学的、生態学的な地域性に加え、こうした観光資源としての側面も含め、サケの多面的な価値を掘り起こし、地域振興にどう役立てられるかを提案していきたい、と青山先生は目を輝かせます。先生は、東大の社会科学研究所との連携プロジェクト「海と希望の学校 in 三陸」の立ち上げにも尽力してきました。

「新巻鮭の話にしても、ストーリーと共に水産物を売っていくと食べた人は余計おいしく感じます。たくさん売るより、高く売るという戦略を取れば自然環境にもいい。また、そうしたストーリーが地域の誇りになると思います。文化も含めたサケの多面的な価値を再構築して、新たな生物資源利用システムを構築したいというのが最終的な出口ですね」。

研究センターを下ってすぐ、大槌湾から歩いて上陸できる蓬莱島。東日本大震災の後、再建された灯台は復興のシンボルとなっている。

取材・文:小竹朝子

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