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東大3MT初代優勝者に聞く 国際研究コミュニケーション大会参加の意義と成功の秘訣は?

掲載日:2020年1月22日

2019年5月、東京大学小柴ホールで開かれた3MTコンペティションで発表する志賀崇徳さん

2019年5月、東京大学で初めて行われた3MT(Three Minute Thesis) コンペティション。3MTとは博士課程在学中の学生が、自分の博士論文の内容について英語で、1枚のスライドだけを使って、一般の人向けに3分以内で説明するというもの。研究コミュニケーション能力を競うこの大会は、2008年にオーストラリアで始まり、今では86ヵ国、600以上の大学で開催されています。

農学生命科学研究科獣医病理学研究室の志賀崇徳さんは、去年の東大3MTで盲導犬の遺伝性疾患に関する自身の研究について発表し、見事優勝。10月にブリスベンのクイーンズランド大学で行われたアジア太平洋国際大会に出場しました。惜しくも準決勝で敗退しましたが、貴重な経験になったと振り返ります。

東大では今年も、3MTの出場者を募集しています(参加申し込みは2020年3月29日まで)。そこで、初代東大3MT優勝者の志賀さんに、出場のきっかけや、大会参加で得られたもの、今年の出場予定者へのアドバイスなどを伺いました。

―― そもそもの参加のきっかけを教えてください。

研究室の中山裕之教授が大学からの案内を見つけて、君は向いてそうだから出てみれば、と声をかけていただきました。今年からこういう大会をやるらしいよと。

―― 3MTの第一印象は?

それまで、研究室内のゼミとか学会の発表とかでしかスピーチしたことがなく、それも殆ど日本語でしかやったことがありませんでした。英語では去年初めて海外の学会に行って発表したぐらい。なので、大会で順位がついたり、審査されるのは、正直嫌だなという気持ちが最初はありました(笑)。

―― 準備を始めたのはいつごろで、どのようにプレゼン内容を組み立てていったんですか?

東大での大会の一か月前ぐらいから準備を始めました。まず自分で英語の原稿を書いて、それを研究室のネイティブの先生(チェンバーズ ・ジェームズ助教)に直していただき、准教授の内田和幸先生、教授の中山先生にもチェックしていただきました。原稿が仕上がった段階で暗記して、3人の前でスピーチしました。その際、チェンバーズ先生がスピーチを聞きながら発音をチェックしてくれました。1枚見せるスライドについても先生方が意見をくださった。それでスライドを作り直して、2回目のスピーチ披露を先生の前だけでやったあと、3回目のプレゼンをゼミの学生30-40人の前でやりました。その時点で、スクリプトの暗記とか発音は問題なかったのですが、「目が泳いでる」とか「もうちょっとゆっくりあたりを見渡せ」とかいろいろアドバイスを受けました。

志賀さんがプレゼンで使ったスライド

―― 研究室の全面的なバックアップがあったんですね。

はい。そのあと、個人的に、二人のアメリカ人にスピーチを聞いてもらいました。一人は近所で英会話教室をやっている方で、主に発音の修正をやってもらいました。もう一人の方は直接会う都合がつかなかったので電話で聞いてもらいました。計5回プレゼンする機会があったので、英語に関しては苦手意識なく本番に臨めたのはよかったと思います。

―― 原稿を覚えるのに夜中に研究室から家に帰ってきてトイレで暗唱したとか?

はい。それは毎日コツコツやりました。広報戦略本部の(サイエンスコミュニケーターの)ケイトリン・デヴァさんからも、覚えたものをしゃべろうとすると本番で大失敗するから、毎日練習して不安をなくして、最後はリラックスしてできるように、というアドバイスがあったので。本番前の1週間か2週間ぐらいは、毎日一回は読みました。大学にいるときは、空いている教室に入って一人でやる、というのも毎日やりました。

―― 東大3MTの本番を振り返っていかがでしたか?

結構リラックスして、人の目を見ながら話せたので気持ち良かったです。楽しくできました。動画をあとで観て思ったんですけど、ちょっと最初に詰まっちゃった。息をするタイミングを間違えて。でもその後はうまくいったのでよかったと思います。

―― 勝算はありましたか?

正直、優勝できるとは思ってなかったんですけど、ピープルズチョイス賞を狙えたらいいな、という気持ちはありました。なので、その賞の発表で名前が呼ばれなかった時に、ああだめだなと思っていました。優勝した時はうれしかったです。

―― 10月に本大会に行くにあたり、どんな準備をしましたか?

ちょっと間が空いてしまって、その間日本の学会とか忙しい時期があったので、本大会の1か月ぐらい前からまた練習を始めました。同じように家と学校で練習する、という形にしたのですが、ちょっと後悔しているのは、他の人に聞いてもらうという機会を持たなかったので、そこはまた違う人に頼んで見てもらってもよかったかなと思います。自分だけでやっていると、間違った方向に行ったときに修正できないので。

2019年10月、3MTアジア太平洋大会の準決勝で発表する志賀さん(クイーンズランド大学提供)

―― ブリスベンのクイーンズランド大学で開かれた決勝大会の様子を聞かせてください。

まず最初に準決勝があったのですが、そこには(世界各地の予選を勝ち抜いて来た)56人が参加していました。朝、大学内の指定された場所に行くと、テントが立ててあって、そこに朝食のバイキングが用意してありました。昼ご飯もそこで出ました。そこで集まって、代表の方から挨拶があって、これから二部屋に分けて準決勝をやると。それぞれから何人決勝に進むかは決まっていないけど、最終的に10人が決勝に上がる、という説明がありました。なので私が現地で発表を聞いたのは自分の部屋にいた28人と決勝の10人でした。

―― 他の参加者はどんな方が多かったですか?

日本からは(西日本の別の3MT大会の優勝者として)岐阜大学の人が来ていました。後はほとんど他のアジアの国や中東の人や、オーストラリアが発祥地なのでオーストラリアやニュージーランドの大学生が多かったですね。驚いたのは、会った時に相手が僕のことをすでに知っていたことです。

―― そうだったんですか!

僕の発表の動画をすでにチェックしてて。僕はそれはやらなかったので、そこでまず差がついてるなと。行く前に自分の動画は見てチェックしたのですが、オーストラリアに行く前に自分の動画の再生回数が伸びていたんですよ。今思えば、ライバルがチェックしてたんだと思います。過去の優勝者の動画はチェックしたんですが、自分が出る大会の他の代表の動画まではチェックしてなかったので、そこがダメだったなという反省があります。

現地では、発表する前に、他の出場者から「お前はguide dogの志賀だろ」みたいなことを言われました。「見たよ、なかなかいい発表じゃないか」みたいな。そこがすごいなと。そこでまず面喰っちゃって。そこで、「お前はあれ発表してただろ」と言い返せればよかったなと。そこは反省してます。

―― 本番で他の学生の発表を聞いてどう思いましたか?

僕のグループの最初から二人目ぐらいが優勝者だったんですよ。なので、序盤にめちゃくちゃレベルの高い発表を見せられて、正直ちょっと緊張しちゃった。詰まったりとか、話が下手とか、おどおどしている人は一人もいなくて、みんな自信を持っていました。正直、東大でやった発表のほうが自分はうまく行ったかな、というのはあります。僕の発表は最後に近い方でしたが、誰が優勝するかは最後までわからなかった。皆すごいと思いました。

3MT決勝(アジア太平洋大会)が行われたオーストラリアのクイーンズランド大学。残念ながら準決勝で敗退した志賀さんは、観客席から10人のファイナリストの発表を聞いた (クイーンズランド大学提供)

―― 何がすごかったですか?

抽象的になっちゃいますけど、華がありますね。ただしゃべってるんじゃない。有名人のスピーチを聞いているかのような、オーラがある感じ。路線としては、受けを狙いに行くタイプと、僕のようにシリアスに訴えかけるタイプのどちらかに分かれていたけど、人を引き込むような話し方の人が多かったですね。

地元のクイーンズランド大学から出ている人も多かったのですが、決勝に来ていた10人は家族ぐるみで応援に来てたりとか、地元では3MTはもっと一大事で、情熱的にやっている感じがありました。経験が蓄積されているなと。

―― 休憩時間などに他の参加者と交流しましたか?

はい。動画を見たという人が何人か声をかけてくれたのに加えて、ニュージーランドから参加していた中国系の男の子が話しかけてくれたんですけど、すごくテンションが高くて、話し始めて1分後ぐらいにハグされて(笑)。「がんばろうな!」と言われて。そういう面白い人もいました。仲良くなるのがうまいですね。バイキングの時とか、どうしても僕はもう一人の日本人の人と端っこで固まりがちだったんですけど、他の参加者は、ぐいぐいと、全員としゃべろう、みたいな人が多かったですね。教室で進行役をやっていた3MTの担当教員も、終わった後に個人的に話しかけてくれて、面白い内容だったよ、と言ってくれて、内容について質問してくれました。

―― 現地の観光をする時間はありましたか?

大会の前日に現地入りして、観光したあと、当日の発表を迎えました。午前中に準決勝が行われて決勝出場者10人が選ばれて、午後に決勝が開かれました。そのあと夕飯を兼ねたパーティーがあって、そのあと2日、観光させてもらって帰ってきました。

大会とは関係ないのですが、ブリスベンはいいところでした。都市部で、川が流れているので船に乗って移動できたり、バスと船の文化があって、どこにでも行けます。向こうの修士課程の学生さんが大会をボランティアで手伝っていて、観光に連れ出してくれるんです。連絡先を交換して、街を案内してもらいました。友達ができるというのはいいことだと思いました。

ハチ公のぬいぐるみを囲んで写真撮影に応じる志賀さんと中山先生

―― 今年の3MTに出場しようか迷っている人にどうアドバイスしますか?

僕は割と典型的な日本人だと思っているのですが、照れとか恥ずかしさとかがどうしてもあるんですよね。そういうものを力づくで変えてもらういい機会だと思います。30人、ネイティブスピーカーがいるところで、自信持って発表しないといけないという経験ってなかなかできないと思うので。僕は今回たまたま賞をもらいましたけど、結果に関わらずそういう経験ができたこと自体が良かったと思います。

あと、とにかく毎日練習してたくさんの人に聞いてもらうということが大事だと思います。仲いい人も良くない人もできるだけ人数集めて聞いてもらって、場数を踏むしかないと思いました。賛否両論含めていろんな意見を聞くことが大事かと。研究室で協力してもらえるんだったら、自分の教授というのはまず専門知識のある人だから、まずそういう人に聞いてもらって、その後は家族でもいいし、ほかの学科の留学生でもいいし。早めに傷つけられるのがいいと思います(笑)。例えば、ゼミで発表しても、興味ない人は聞いてなかったりします。そういう経験は早めにしておいたほうがよいと思います。強いハートが必要なので。

―― 3MT参加経験は研究者としてのキャリアに役立つと思いますか?

役立つと期待しています(笑)。僕は大学の教員になりたいんですけど、今後も海外の学会に行ったりとか、日本でも英語で話さないといけない機会が増えると思うので、自信になると思います。あとは、こういう大会に出ましたということを履歴書に書けるというのはありがたいなと思いますね。

中山裕之教授のコメント

普段から学部生向けに、プレゼン資料を英語で作らせて、日本語、英語のどちらかで皆の前で発表させる、という授業を行っています。なので、志賀君には話す才能があると思っていて、3MTの案内があったときに、彼ならいけると思って声をかけました。

研究者にとって、研究内容が重要なのは当たり前で、それをいかに人に伝えるかというトレーニングが必要。その両方があって初めて一流になれると思っています。スライドには情報を盛りすぎるな、とアドバイスしました。学会とは違う場なので、聞いている対象が誰なのかをわきまえた上でスライドを作る必要がある。3MTはそういうことを気付かせるコンテストだと思います。また、自分が発表しなくても他の人の発表を見に行って、聴衆に「受ける」にはどうすればよいかを勉強できる良い機会だと思っています。

 

東大3MT 受賞者のコメント

Jennifer Chia Wee Fernさん(準優勝)

いただいた研究費は研究のデータを集めるための国内でのフィールド調査に使ったほか、1月にハワイで行われた学会への参加費用にも一部充当しました。これは私が米国で行った初めての学会発表です。3MTからいただいたチャンスにとても感謝しています。
私の出身国、マレーシアの大学の多くの教授が、受賞を知ってほめてくれました。実はマレーシアでは3MTは広く知られていることを知りました。

Tiffany Joan Soteloさん(ピープルズチョイス賞)

3MTはサイエンスコミュニケーションの練習をするのに良い場だと思います。適切な言葉を使えるようになること、そしてプレゼンを簡潔に、面白くするのは博士論文を書くよりチャレンジングだと感じます。
いただいた10万円は、広島で開かれた微生物生態学の学会に参加するために使いました。登録費、ホテル代、交通費をまかなうことができました。私はもともと生化学が専門なので、(違う分野の)専門家から学ぶことができました。3MTからの研究費がなければおそらく行くチャンスのない学会でした。

取材・文:小竹朝子

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